「歴史的」だったか

 男が上着の懐に手を突っ込んでいる。内ポケットにあるのは飛び道具か、おもちゃの銃か。男は「いつでも抜けるぜ」と周りを挑発する。何をしでかすか知れない、危なっかしい国はこんな男に例えられる。北朝鮮がその例だと、この欄に書いたことがある▲かたや米国は見るからにすごい腕力、つまり軍事力を誇るマッチョ男に例えられてきた。両国の見られようは全く異なるのに、きのうの米朝首脳会談は、まるで世界の二つの巨頭が新たな歴史を刻んだかのような演出たっぷり-に映った▲「核戦力の完成」を宣言し、周辺国や大国を挑発していた北朝鮮が、共同宣言で「朝鮮半島の完全な非核化」を約束した。見返りとして米国は体制保証に応じたが、これを歴史的な成果と呼べるかどうか▲「非核化」ならば先の南北首脳会談で確認されている。ではいつまでに、どう進めるか。どう検証するか。問われたのはそこだったのに、踏み込めなかった▲北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)委員長と「特別な絆を築いた」とトランプ米大統領は胸を張ったが、会談前の意気込みに比べ、後退と言うほかあるまい▲日本人拉致問題も「提起した」にとどまった。会談した当人がいくら「歴史的」と誇ってもあまり意味はない。動かないことを実際に動かしてこその「歴史的」成果のはずである。(徹)

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