【特集】止まった時間を取り戻す

三女・アーチャリーの素顔(1)

インタビューに応じる松本麗華さんと著書

 文章は心を映す鏡だ。違う視点、多様な見方に、はっとすることがある。オウム真理教の松本智津夫死刑囚(教祖名・麻原彰晃)の三女、松本麗華さん(35)が自身の半生を振り返った「止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記」(講談社)の文庫本を出し、インタビューに応じた。27人もの命を奪った教団による一連の事件、その記憶は今も遺族、被害者を苦しめている。地下鉄サリン事件当時、11歳だった彼女は「麻原の娘」としてさまざまなバッシングを受けてきた。「アーチャリー」という虚像を抜け出て、自分の人生を歩むために、これまでの体験や考えを実名で語り始めた麗華さんに聞いた。(共同通信=柴田友明)

恐怖消えた

 ―3年前に、(実名公表、顔写真を掲載した)単行本を出してからご自身は何が変わりましたか?

 「自分の内面が大きく変わりました。父の娘だとばれたらどうしようという恐怖感が消えました。父の娘だと分かるのが普通だと思っていれば、暴かれる恐怖みたいなものはなくなりました。もう一つは、自分自身を取り戻していったということです。本を書きながら思ったのは、自我が強くない子どもが周りから『犯罪者』のようにたたかれ続けたら、その子は自分がやってもいないのに、やったかのような錯覚をしてしまうということ。本当の自分が分からなくなる。自分がやったこととやっていないこと。本を書くことは区別がつかなくなっていたことを整理する機会になりました」

 ―メディアとの距離感も変わりましたか?

 「メディアの人とは、今までより、しっかり話し合うといいますか、自分の状況、事実を伝えていこうと努力をしています。意見が合わない人とも会います。メディアとの接点が一番増えたかもしれません」

反応しない父

 ―東京拘置所にはどれぐらいのペースで通っていますか。刑務官はどんな対応ですか。

 「最後に父と会えたのは10年前の2008年4月11日。それ以降、会えていません。父に会いたくて毎月1、2回、これまでに160回以上通っています。刑務官でシンプルな返事をする方は…(両手を交差させバツ印をつくり)これだけで終わりです。会話なく終わることもあります。あとは『呼びかけに応じず、部屋から出ようとしない』という定型文、それを暗記されている人もいます。呼びかけに応じることができない場合、ストレッチャーに載せて連れてくるとか、そういうことはしていただけませんかと尋ねたら、本人の意思表示がなければ無理だと言われました」

 ―当初は接見中に相づちを打っているように見えたが、ずっと沈黙を保ち、何もリアクションしなくても、「うん、うん」と音を発している。コミュニケーションができなくなっていることに気付いたと本に書いていますね。急に手をたたいて反応するかどうか、試みた医師の話も取り上げていました。

 「接見室に入る前、逆に帰る時も音が続いていることがありました。わたしは、弁護人や刑務官がびっくりするほどの大声で叫んだこともありますが、父は、ピクっとすることもありませんでした」

時間が動かない生活

 ―ほかに(12人いる)死刑囚の人とは会えましたか。会わない人の心境をどのように察していますか?

 「井上(嘉浩)さん、土谷(正実)さん、豊田(亨)さんとは会えていません。井上さんには何回か(接見を)申し込んだのですが、『(麗華さんが)小さいときに親しくしていたから会いたい気持ちはあるが、ふんぎりがつかなかった』と共通の知人の方から聞きました。土谷さんとは、はがきでやりとりして会う直前までいきましたが、面会できている方に接見させないようにされました。豊田さんは関係者とのやりとりを一切しないと決めていてそれを拘置所に申し立てたと聞いたことがあります」

 ―いまは早川紀代秀、新実智光両死刑囚ら大半とも面会できないのですよね。接見したとき、彼らとはどんなやりとりを?

 「事件を起こしたことへの重さ、それについてすごく苦しんでいました。なかなか簡単には聞けません。現在は時間が動かない生活をしている方々なので、過去においてどんなことがあったかを日々振り返っていて『きょうは事件があった日だ…』と、一言、二言しか交わせないぐらいに落ち込んでいたこともあります。本人たちが大変な状況なのに、私の体調のことや生活のことを気遣ってくれて……」

 ―接見を重ねて、事件について彼らがお父さん(松本智津夫死刑囚)の指示や気持ちをどう解釈したのか分かりましたか。

 「父の指示だったと信じている方がいることは理解しています。例えば地下鉄サリン事件の場合、ほかの死刑囚が父の指示があったと法廷で証言しているけれど、どんな指示だったのと聞くと(その死刑囚が)『(刺殺された最高幹部の)村井(秀夫)さんが上を向いた』とか、そんなやりとりを言うわけです。『分かるだろう』と(私に)言われる。でも、私には村井さんが上を向いたというだけで、父の指示だとはわからない。ただ、なるほど、察した気持ちになる空気、それがあったのだと思います。この23年でいろんな人の話を聞き、資料も読んでいます。その上で、父から直接何があったのか聞きたいです」

 【特集】止まった時間を取り戻す 三女・アーチャリーの素顔(2)に続く

山梨県のオウム真理教施設に入る捜査員たちと富士山麓の教団施設=1995年当時

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共同通信

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