「ぼくたちは変われる」:格差改善へ、スラムで戦う若者たち

特定非営利活動法人ミタイ・ミタクニャイ子ども基金はこのほど、南米パラグアイ共和国の都市スラム・カテウラ地区の住民を対象とした生活改善プロジェクトを行っている。同国は経済成長を遂げているが、都市部と農村部の経済格差が深刻だ。都市部と都市スラムの間にも格差が生まれている。そんななか、負の連鎖を断ち切るために活動している若者たちがいる。同団体は彼らのプロジェクトを支援しており、活動資金をクラウドファンディングで集めている。同団体でインターンしている鈴木泰輔さんに寄稿してもらった。

現地で活動する若者と写るインターン生の鈴木さん(左奥)

私が初めて大学のプログラムでその地域を訪れた時、目の前に現れたゴミ山とその臭いに絶望感すら覚えた。私がそれまで見てきた世界とはあまりに違いすぎる現実があったからである。そして、言葉にはできない思いに突き動かされ、この国で活動しようと決意し、2017年9月から今日までインターンとしてパラグアイで活動している。

■パラグアイのゴミ山スラム

バニャード・デ・アスンシオン、通称カテウラはパラグアイの首都アスンシオンから車で15分ほどの距離に位置するスラム地域である。1960 年代に農村部から仕事を求めて都市部に来た人々が住む場所を見つけられず、この地域に流れ込み、不法占拠という形で住みつき始めたという。

パラグアイ川沿いに位置しているため、川の水位が上がると洪水が起こる地域である。そのため洪水の度にカテウラの人々は家を離れざるをえない。また政府はカテウラへの居住を認めていないため、公的支援は住民に行き届かず、インフラの整備も足りていない。

カテウラの住人の多くは路上やゴミ集積所でリサイクルできるゴミを集め、それを換金して生活している。路上で物を売って生計を立てている人も多くいる。カテウラ出身というだけで偏見を持たれ、職を得るのが難しいからだ。そのため経済的に苦しい状況にある人がほとんどであるのだ。

仕事を見つけることができず、酒や麻薬に手を出し、アルコール依存症や麻薬中毒になってしまう人も少なくない。南米で特徴的なマチスモ(男性優位)思想から起こる家庭内暴力や若年妊娠、シングルマザーといった問題も根深く残る。様々な問題が複雑に絡みながら負の連鎖がカテウラでは起きている。

■スラムで戦う若者たち

そんなカテウラの負の連鎖を断ち切るために活動している若者たちがいる。現地NGOのJuvenSur(フベンスール)だ。カテウラ出身の若者たちが集まり、カテウラの状況を改善しようと活動している。フベンスールは「教育」「保健」「職業訓練」の3つを掲げて活動を行う。カテウラの住民を対象にワークショップを開いたり、映画やダンスなどの文化教育を行ったりしている。洪水が起きた時にはトラックを借りて住民の引っ越しを手伝うなど、住民のためのボランティア活動も積極的に行っている。

フベンスールのリーダーのハビエル・ナルバハは10人の兄弟と母親と暮らす。彼は学生時代、午前は授業、午後はゴミを拾って家計を助けながら勉強を続けていた。彼の大きな努力が実り、奨学金の助けもあってパラグアイのトップ大学であるアスンシオン国立大学に入学し、哲学の学位を取得した。

「自分はゴミを売って生計を立てながらアスンシオン国立大学で学位を取得することができた。だから他のカテウラの若者たちも僕と同じようになれる可能性があると信じてフベンスールの活動を続けている」とハビエルは語る。フベンスールのメンバーでハビエルの兄でもあるルイス・ナルバハも奨学金を得て他の地域のパラグアイ人も通う高校に通っていた。そこで他の地域に住む生徒との格差を感じたという。

ゴミで溢れかえった川

「車で送ってもらっていた生徒もいたし、僕みたいに働いている生徒もいなかったからね」と当時の様子を語る。高校生のときに他の地域の人々の生活を知ったことで格差を認識し、カテウラの現状に対する問題意識が生まれたという。

「カテウラの若者たちも外の世界を知ることで現状を変えなければいけないという意識が生まれると思っている。だから僕たちはフベンスールの活動を通じてカテウラの若者たちが社会に出られるようになることを望んでいるんだ」とルイスは語る。特定非営利活動法人ミタイ・ミタクニャイ子ども基金(以下ミタイ基金)はフベンスールとともにクラウドファンディングによる資金調達を行いながらカテウラの生活改善プロジェクトを進めている。

ミタイ基金はパラグアイの農村部やスラム地域にて教育支援を中心に活動しているNPO法人である。2011年より代表理事が調査を開始し、2015年よりフベンスールとともにカテウラで活動をはじめ、現地の情報交換やフベンスールの活動のサポートを行っている。これまでにはカテウラの子ども達を対象に栄養教育支援や子どもの日のイベントの開催、サッ
カーコート建設のプロジェクト、食料の配布などを実施してきた。

今回実施する生活改善プロジェクトではいままでフベンスールが行ってきた活動をパワーアップさせ、ミタイ基金のサポーターでもあるアスンシオン国立大学他の大学教授や専門家を講師として招き、性教育や栄養に関するワークショップなどを行う予定である。今回のプロジェクトへの意気込みをルイスはこう語る。

「僕たちはこのまま変わらなければ貧しい者として生まれ、貧しいまま死んでいってしまう。でも僕たちはみんな変わる可能性を持っているんだ。それが僕たちフベンスールのモチベーションであり、希望でもあるんだよ」

私はその眼に希望とカテウラの明るい未来を見た。現在実施しているクラウドファンディングのサイトはこちら

特定非営利活動法人ミタイ・ミタクニャイ子ども基金ウェブサイト

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