車いすで元気になって 避難生活で膝悪化 家族が「母の日」に贈る 益城町

自宅のスロープで、家族から贈られた車いすに乗る橋本奈那子さん(中央)。左は長男の妻真弓さん、右は夫正光さん=12日、益城町安永(池田祐介)

 「結婚した時よりうれしかったプレゼント。乗り心地の良かとよ」。熊本地震で長年営んできた小料理店と自宅が全半壊した益城町安永の橋本奈那子さん(78)は真新しい車いすが誇らしげだ。長期の避難生活で足腰が弱り、ふさぎがちだった2年余り。今年の母の日、家族から贈られた車いすが気持ちを前へ向かせてくれた。

 町中心部の県道熊本高森線沿い。自宅の隣に小料理店「榮太楼[えいたろう]」を構え、夫正光さん(82)と33年間切り盛りしてきた。ホルモンのみそ煮込みと辛子れんこんが地元で評判の店だった。

 本震の日。築40年の自宅と、隣接する店は無残な姿となった。前震後に避難して3世代家族6人は無事だったものの、「思い出が何もかも無くなった」と涙が止まらなかった。

 地震後の2カ月間、車中泊や軒先にテントを張ったりコンテナを置いたりして寝泊まりを続けた。外出機会は減り、避難生活で足の曲げ伸ばしもしづらい環境。持病を抱えた膝が悪化していった。

 仮設住宅に移ったばかりの8月には足が腫れ上がって倒れ、救急搬送。その後は立ち上がることさえ難しくなった。

 「地震前は元気が良すぎるくらいだった」と家族が口をそろえる奈那子さん。不自由な足を抱え、家にこもりがちになった。

 2017年9月、自宅を再建。だが店があった隣接地は駐車場になった。年齢的にも店の再開は厳しいと分かってはいても、心に穴があいたように無力感が押し寄せた。

 「外に出れば気分が晴れるのでは」。同居する長男の会社役員日出男さん(56)と妻真弓さん(52)は、何とか母に元気になってもらおうと車いすの購入を提案。親子でカタログを見て、できるだけ乗り心地がいいものをと、大きなタイヤでパンクがしにくく、座席シートにクッションが効いた1台を選んだ。

 5月の母の日。自宅に車いすが届いた。奈那子さんは、あらためて家族の思いに涙が止まらなかった。

 「借り物と自分のとじゃあ全然違うね」。まだ新築の香りがする自宅の自室には、直接外出できるようスロープも設置してある。「買い物に出掛けたい」とやっと思えるようになった。

 多くの常連客を魅了してきた辛子れんこん。「今年はたくさん作らんとね」と家族にうれしそうに話す姿は、元気な“女将[おかみ]”そのもの。奈那子さんの車いすをいつも押してくれる家族は、地震を乗り越えて前へ進むための背中も、そっと押してくれた。(志賀茉里耶)

(2018年6月14日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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