ミシェル・ウィリアムズがマイル特典で来日 『ゲティ家―』再撮影参加は娘の一言 今後はジャニス・ジョプリン役も

ミシェル・ウィリアムズ(アフロ)

▼米国の女優ミシェル・ウィリアムズはアカデミー賞候補になること4回、30代後半~40代前半世代では、エイミー・アダムス、ジェシカ・チャステイン同様、いつかはオスカーを手にするだろうが、もうそろそろ受賞してほしい女優の1人だ。

 先日、「ミシェルの来日インタビュー機会が急きょできたのですが」と言われ、駆けつけた。聞けば、プライベートでの来日ながら、主演映画『ゲティ家の身代金』(リドリー・スコット監督。公開中)のために半日、幾つか取材を受けるという。

 通常、スター俳優の来日とくれば、パブリシストやヘアメイク、人によってはボディガードも同行するが、今回はお一人様。ある日の昼、ミシェルが泊まる東京都内のホテルへ行くと、取材場所となったスイートルームには日本の配給・宣伝スタッフ、通訳だけ。奥のソファーに、朝からホテルのスパに行っていたというミシェルが、非常にさっぱりしたくつろいだ顔で、ちょこんと腰掛けていた。よほどいいスパなのだろう。

▼「プライベートで来日されたんですって? マチルダさんも一緒ですか?」

「日本が好きで旅行に来たんです。娘は今学校で、来てないの。京都、松本、名古屋に行きました。5日間だけの短い旅だけど、(航空会社の)マイルがたくさんたまったから(笑)」

▼マチルダさん(12歳)とは、俳優の故ヒース・レジャーとの間に授かった娘さんだ。

「娘の話をする時、私はよく『We(私たち)』という言葉を使うぐらい、彼女とは共同体のような感じなの」とミシェル。実際、この娘さんの一言がなかったら、『ゲティ家の身代金』は世に出なかったかもしれないのだ。

▼ご存知の方には耳タコだが、『ゲティ家の身代金』は、セクハラ・性的暴行の被害者が加害者を告発する「#MeToo(私も)」ムーブメントの中で、図らずも象徴的存在になった映画だ。昨年秋、全米公開を1カ月後に控えて、助演のケビン・スペイシーが俳優アンソニー・ラップへのセクハラで告発され、映画はお蔵入りの危機に。しかし、名優クリストファー・プラマーを代役にして、たちまち再撮影を敢行。予定通りの公開に間に合わせた上、プラマーは米アカデミー賞助演男優賞の候補にもなった。

 のちに、再撮影9日間の報酬がミシェルは千ドルなのに対し、共演のマーク・ウォールバーグは交渉して150万ドルだったと報じられ、男女の待遇格差に批判が巻き起こるおまけまで付いた。(後にウォールバーグは追加報酬をセクハラ被害者支援基金に全額寄付)

▼「セクハラのニュースを耳にした時は、本当に悲しくなりました。現に被害者がいるのに、加害者が大スクリーンに出て存在感を放っていくことは、私は許せず、この作品が世に出ませんようにとさえ思いました。でも、ハリウッドでは歴史的な、とてもスリリングな試みとして、再撮影がみんなの努力で行われることになったんです」

▼再撮影の日程が、大切な感謝祭の祝日に重なってしまい、ミシェルは家を空けることに迷いがあったという。だが、「娘が『撮影に行ってママ。正しいことをして』と背中を押してくれたんです。それに、娘も私も『サウンド・オブ・ミュージック』の大ファン。娘はジュリー・アンドリュースのサイン入りブロマイドを自分の部屋に飾っているぐらいなの。だから、あのトラップ大佐(を演じたプラマー)が出演すると聞くと、娘は興奮して『ゴー!ゴー、ママ!』って」と噴き出して笑う。

▼「プラマーさんに『エーデル・ワイス』を歌ってもらいました?」

「ノー(笑)。恥ずかしくて頼めなかった。でも私たちはたくさん話をしたし、写真も一緒に撮ったの。今見せるからちょっと待って」

 スマホを取り出し、写真を筆者に見せてくれるミシェル。再撮影に行く直前か、ロサンゼルスで撮ったプラマーと娘のツーショット。まるで久々に再会したひいじいさんと孫娘。優しく、うれしそうな顔の2人が肩を寄せ合って座っている。

▼ミシェルは、セクハラを許さず、奇跡的な短期間で再撮影を完遂したことを、ほっとした表情で振り返る。

「娘の世代に、これまでとは違う世界を渡せるかの瀬戸際だったと思うんです。今、多くの人が我慢して隠してきた性的被害を語りだしているし、どうあるべきなのかを話しています。今作はそうした会話の一部になったし、変化の風潮を生み出しました。私たちが望むことを達成できるのか、前進は少しずつだと思いますが、見守っているところです。この機会に参加することが、私の人生でもとても重要なことだと思います」

▼さて、『マリリン 7日間の恋』(2011年)ではマリリン・モンローを演じたミシェル。今後の数ある出演予定作の中には、火花が散るごとく激烈だったロック歌手ジャニス・ジョプリンの伝記的映画で主演する企画がある。企画が公表されたのは約2年前だ。

「ジャニスの企画を聞いた時、たまげました。あの企画はまだ生きてるんですよね?」

「そう確信してますよ。自分が考える以上の映画にしたいというのが、私の考える小さなフィニッシュラインです」

「マリリンもジャニスも演じるなんて、ちょっと意味が分からないですけど(笑)」

「(笑)私も分からないわ。どうできるのか、まだノーアイディアです。でもだからこそやりたいんですよ」

 15歳で学校を離れたミシェルは「私は正式な教育の中にいた時間が短く、大学で学んでいません。でも学ぶことが大好き」と言う。「私はいつも、自分ができることと、できるようにしたいことのギャップを見つめ、どうすればギャップを飛び越えられるのかを考えています。発声や動作、ダンスなどの新しい先生を探しては学んでいるので、この何年もの間、私のやり方は変化し続けていると思う。そのことを私は愛しているし、もっと学びます。ダンサーと同じように、鍛えるほどに楽しむことができると思うんです」。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第112回=共同通信記者)

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