【現場ルポ】〈美陵高架橋(大阪)に採用された、新日鉄住金エンジの「常設足場」〉腐食防ぎ、維持・補修の安全性向上

 新日鉄住金エンジニアリング(社長・藤原真一氏)の建築・鋼構造事業部の新技術である防食機能付き橋梁常設足場「NSカバープレート」が大阪府藤井寺市の美陵高架橋で採用された。橋梁の長寿命化を図るとともに、近年義務付けられている近接目視による点検を安全・確実に行うことが可能な常設足場の役目を果たす。西日本高速道路(NEXCO西日本)では初採用となる。跨線橋の下を線路が走る厳しい施工環境の中で、安全に設置が進められている現地を取材した。(村上 倫)

 本製品は内皮材、芯材、外皮材の三層で構成されるサンドイッチパネルと本体構造物への取り付けに必要な支持材を組み合わせた橋梁用外装材。外皮材は純チタン板、ステンレス塗装鋼板、ガルバリウム鋼板の3種があり、用途や環境によって選択できる。また、芯材のポリイソシアヌレートフォームは高い断熱性能で結露を防ぐ。羽田空港D滑走路の建設で、桟橋部や連絡誘導路橋などに使用されることを見据え、2003年に旧新日本製鉄君津製鉄所で初採用され、羽田でも実際に採用された。

 その後、12年に発生した笹子トンネル天井板崩落事故を契機に、国土交通省は橋梁・トンネルについて5年に1回の頻度で近接目視による点検を行う旨の省令を施行。橋梁など高所の点検のため、常設足場への関心が高まる中、常設足場の機能に加え、高い防食効果により腐食や結露の発生を抑制する本製品が評価され採用が急増。NEXCO東日本や首都高速道路などでも採用され、これまで60万平方メートル以上の採用実績を持つ。カバープレートの製作は中村建設工業(埼玉県春日部市)と平和エンジニアリング(大阪府岸和田市)へ委託している。

 今回の案件は「美陵高架橋における常設足場等設置工事」で、現場は大阪の西名阪自動車道と近鉄南大阪線の交差部に当たる。発注はNEXCO西日本関西支社、元請けは近鉄軌道エンジニアリングで、西名阪自動車道の橋桁裏面および側面に892平方メートルが設置された。内皮材はガルバリウム鋼板で外皮材にはカラーステンレスパネルを用いた。接続するナットには東京衡機エンジニアリングの「スマートハイパーロードナット」を使用。振動外力への強力なゆるみ止め性能と通常のナットと同様の施工性を両立された高機能製品だ。

 現場は近鉄南大阪線との交差部ということもあり「安全面には特に配慮した」と委託者であるNEXCO西日本関西支社阪奈高速道路事務所保全計画第一課の松下剛課長は強調する。西名阪自動車道の当該箇所は「施工から50年近くが経過し、車両の大型化なども加わって床版が劣化していた」という。床版取替えも視野に対応を検討し「5年に1回の近接目視も行うがいつでも中に入ることが可能な構造が必要で、桁を全部覆う構造が求められた」。

 線路上という環境下で床版の取り替えや補修作業を考慮に入れると「仮設材を組まなくても済むように橋梁部壁高欄(自動車などの落下を防ぐ柵)の下側を覆う通常の形ではなく、高欄の外側まで覆うことができる構造が必要と考えた」。列車を止めずに足場そのものの点検も内側から可能で、ボルトも内側から触診して点検でき、壁高欄や遮音壁に車が衝突した場合に高欄などの点検もできる機能を求め検討した結果「NSカバープレート」の採用に至った。パネルは軽量で「取り替えも人力で可能な点も評価した」という。

 本件では図面ではわからない細かい部分を検討するため、新日鉄住金エンジがモックアップ(実物の模型)を製作。各部材がどのように設置されているか一目瞭然で、実際にこれを基に一部のボルト類が外側取付となっていたものを内側取付へと改善した。また、作業者の道具類が線路上へ落ちることを防ぐため、検査路の手すりの下部にも防護板を設置。万が一物を落としても中に収まるような対策を講じた。モックアップは現場付近に設置され、事前に現場職人が施工手順を確認するためにも使用されたほか、NEXCO西日本の点検やメンテナンス担当社員の教育にも活用。他の跨線橋を抱える道路管理者など多くの関係者が見学に訪れている。

 設置作業は列車の運行終了後の深夜から翌朝運行開始までの実質2時間半で奇数日のみという厳しい条件だったが、工事は予定通りに進められている。点検時に少しでも明るくなるよう採光窓もつけられた。製品の安全性が評価されており、モノレールや鉄道の軌道上にも施工されている競合製品は他にないという。今後も橋梁の長寿命化と安全の担保に寄与していく製品となりそうだ。

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