学校法人「森友学園」の国有地売却問題をめぐり、会計検査院渉外広報室の前川猛室長(43)が6月上旬、共同通信のインタビュー取材に応じた。前川氏は、学園をめぐる検査報告書を昨年11月に公表した検査チームの責任者だ。国会では財務省、国土交通省の幹部が検査院への働き掛けを協議していた「意見交換概要」や検査院からの照会に対する回答文書の存在が明るみに出た。報告書に再び注目が集まる中、約3時間にわたり渦中のキーマンに聞いた。(共同通信・大阪社会部=真下周)
▽「談合」と言われるの不本意
―省庁からの圧力や政権への忖度が働かなかったか疑念が出ている。
「会計検査院は英語で『board of audit』、auditは相手の話を聞くという意味。検査の中では、対象の省庁に事実関係に誤りがないか確認したり、矛盾が見えたら疑問点をぶつけて見解を聞くことは日常的にしている。それをさも『談合』みたいに言われるのは正直、不本意ですわ」
―検査の過程で不当な介入を感じたことは。
「なかった。現象からすれば、上司の意見で書き直したってのはある。でも合理的な理由やったから、納得した。ぼく自身は審議過程を含めて最終成果物(公表した検査報告書)に満足してる」
「うちの組織ってわりとフラット。森友の件も本音で議論して、審議も上から理屈なく押さえつけられたことはない。公表されたあの意見交換概要を見ると『検査院に対しては官邸だからといって通用しない』といったやりとりもある。そこも見てほしい」
―森友の報告書をきっかけに会計検査院の仕事がすごく注目された。
「正直、ここまで注目されるのは(会計検査院の調査官を扱った)小説、映画『プリンセス・トヨトミ』やテレビドラマ『黄金の豚―会計検査庁特別調査課』以来やね。森友の方がでかいけど」
▽「すごい」陣容
―検査を担当したのは第3局の国土交通検査第2課という部署だった。財務省担当の部署もあるが。
「あの国有地は伊丹空港の移転補償跡地。それで『空港整備勘定』という特別会計内の勘定になってる。大阪航空局が管理する土地やから、この部署に割り振られたわけ。ぼくはそこのトップの統括調査官で、下に副長が2人、調査官が5、6人の態勢」
―自身が検査に関わることになった経緯は。
「前は検査院の組織改編を担ってて、その後片付けの最中に呼ばれた。みんな、ぼくが大阪出身って知ってるんでね。『土地勘あるやろ?』ってことなんやろうな。ただ苦笑いするしかなかったわ。そんなに自信家でもないし。あれだけ世間から注目されて、ちゃんと仕事してバランス、いや納得できるものを世の中に出さんと、津波のように問い合わせが来ちゃうやろ」
―検査は9カ月間に及んだ。
「最初は気が重たかったけど、チームの陣容が固まった時に『すごいのそろったな』とテンションが上がった。検査の現場で『一目置かれる』で済まないメンバーが集まったから」
「検査チーム専用の部屋があって、そこを出たり入ったりせわしなかったけど、やばい話は部屋の中でしかできんかったね。かん口令っていうか、『あんましゃべんなよ』って感じはあった」
▽北風と太陽
―大阪地検特捜部が収集した資料は膨大で、データ量は1テラ、印刷すれば富士山の高さに匹敵するとか言われている。
「うちはさすがにそこまではないけど、部屋が資料で一杯になった。強制捜査権がある検察と違って、うちは相手の懐に手を突っ込まれへん。お願いして資料出してもらう立場。検察と検査院は関係でいうと、北風と太陽みたいなもんですわ」
―意見交換概要ではごみの評価について「総額を(報告書から)消すことが重要」「金額よりトン数の方がまし」などとやりとりしている。
「それが一番の肝やからね。書かれたダメージでかいから。でも正直言うと、『あなた方、金額だけでなくトン数に関しても、あれだけ文句言ってたやんか』という思いはある。実際に相手との間でのすごく激しいやりとりがあったことは隠さない」
―廃棄したなどの理由で資料を出してこない。
「ぼくの中で過去にこういう経験ないねん。その意味で驚きはしたけど、ある程度、資料はそろっていたとも言える。でも資料のクオリティーが低いというか、なんで肝心要のところだけ抜けてんの、って感じやった」
―肝心要というのは。
「例えば地下3.8メートルからごみが見つかったとする工事写真。隣に写ってるボードには『3メートル』って書いてあるしさ」
▽早い段階から「断定難しい」
―違法でなくても、合理的な経済性が損なわれていたら『不当』になる。なぜ報告書の所見に「不当である」と踏み込んで書けなかったのか。
「もしあれが公共工事だったら『不当』やったかもしれへんね。確か写真(の管理)基準があったはず。でも民間工事にはその基準はないから」
「これまで地下埋設物がある土地の評価で『不当』と非難したケースがなかったことも大きい」
―過去に例がないとの理由なら、なおさら批判されるのでは。
「最初から決め打ちではなかったけど、わりと早い段階から『不当』と断定するのは難しいと感じていた。きっちり批判できる材料がそろっていれば、当然言うけど、そうではなかった」
【特集】森友検査のキーマンに聞く(2)に続く