ハイレゾ普及に尽くしたい 事件後見えたものは ASKAさんインタビュー(1)

By 稲葉拓哉

インタビューに応じるASKAさん=2018年5月28日、東京都内

 歌手のASKAさんがデジタル音楽配信サイト「Weare(ウィアー)」を立ち上げた。高音質のハイレゾ音源の普及を目指すとともに、若手ミュージシャンに楽曲配信の場を提供していくという。
 インターネットの普及や技術革新で変革期を迎えた音楽業界、過去に自身が覚せい剤取締法違反で有罪となった事件を通じた心境の変化、音楽制作への情熱…。それぞれに対する思い、そしてなぜサイトを開設したのか、インタビューした。

 ※ハイレゾ ハイレゾリューションの略。CDと比べると3倍以上の情報量があり、きめ細かいデータを再生することで生の演奏を聴くような臨場感を体験できるとされる。有料配信される大量のデータをパソコンなどにダウンロードすることで再生が可能。レコードやCDに次ぐ音楽商品ともいわれている。

ASKAさんが立ち上げたサイトのロゴ

 ▽ハイレゾ音源とストリーミングサービス

 ―まず「Weare」の取り組みについて教えてください。
 
 まず、ハイレゾ音源を世の中に届ける活動を始めます。ハイレゾっていうのは数年前から存在するんですけど、あまり広がりを感じないですよね。聴くためには環境を整えなければいけないし、なにより1曲あたりの値段が高すぎる。500円以上するので手が出にくいでしょ。

 ―なぜハイレゾの普及を始めようと思ったのですか。

 事件後、所属するレーベルを離れ、インディーズで活動を始めました。僕は音楽の制作からリリースまですべての工程に携わることになりました。メジャーレーベルにいるとこういう経験ができるアーティストってまずいないのですが、そこでふと「世の中のハイレゾ音源って、なぜこんなに高いんだろう。低コストで作れるじゃないか」という疑問が生じました。

 ―手軽に音楽を聴けるストリーミングサービスが世の中の主流となりつつある今、ハイレゾにこだわる理由は何でしょう。

 ストリーミングは今の文化であり、否定しようとは思いません。手軽に音楽を知ってもらうことも大切です。ただ、便利な一方、音源が圧縮されて配信されるため、スタジオで慎重に作った音質は消えてしまう。最近ではCD並みの音質のものもあるけれども、ほとんどが圧縮されています。それがアーティストの楽曲として認知され、聴かれることになる。こだわった音源ではない作品が世の中に広まる懸念を、作る側は持たなくてはいけません。

 ―楽曲制作に対する姿勢が普及活動につながっているということですね。

 手軽にどこでも聴けるストリーミングがあれば、別に良い音は求めないという人もいると思います。ただ、われわれにもスタジオで作った音を聞いてほしいという思いがある。やっぱり立体的な音は素晴らしいですからね。それを特に若い人たちには知ってほしいなと思います。

 ―具体的にどのように普及させていきますか。

 まず1曲280円という価格で提供することにしました。また、ハイレゾを聴ける環境を整えるため、対応するスピーカーなどを販売していこうと考えています。配信音源はハイレゾに特化していきたいと思っています。

 ―一般的な価格が500円前後という中では低価格ですね。

 世の中にストリーミングが普及するように、ハイレゾがもっとリスナーの身近になる活動をしなければいけないと思っています。ストリーミングという文化を走りながら、その横ではミュージシャンが作るしっかりした音源を届ける文化も育てなくてはいけない。双方がそれぞれの道を歩んでいくことを目指しています。

 ▽事件によって変わった環境

 ―「Weare」の構想を実現させようと思ったきっかけはなんでしょう。事件との関わりはあるのでしょうか。

 ええ、あの事件がなければインディーズで活動を始めることはなかった。独立して会社も設立しなかったでしょうし、「Weare」の構想も形になることはなかったでしょう。決して起こしたことを肯定する訳ではありませんが、あの事件がなかったら僕は何にもやれていなかったですね。
 もちろん、一度事件を起こした僕がいい人に見えるようにプロモーション活動を始めたと映るかもしれません。それは仕方がないと思います。

 ―そうした逆風もある中で、活動を始めようと思ったのはなぜでしょう。

 事件の後、これまで応援してくれていた方々が僕を守ってくれたんです。人にそうやって愛されたら、愛したいって思うじゃないですか。愛し返したいって。いろんなことがあったけれども、薬とは関わりがなくなった今だから、すごく幸せな環境で音楽がやれるようになりました。

 やっぱり今の自分があるのは音楽があったから。これからは音楽への感謝の思いから、この業界で何ができるのかを「Weare」の活動を通じて考えていきたいですね。(続く、聞き手・共同通信写真部=稲葉拓哉30歳)

Weareのサイトはこちら

後編はこちら

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