ACO、2020年WECの『新トップカテゴリー』の概要を発表。“ハイパーカー”とコスト削減を狙う

 ル・マン24時間を運営するフランス西部自動車クラブは6月15日、サルト・サーキットで毎年恒例のプレスカンファレンスを開催し、2020-2021年に導入される『新トップカテゴリー』の概要を発表した。

 2017年限りでポルシェがLMP1クラスを撤退し、メーカーワークスではトヨタのみが戦っているWEC世界耐久選手権/ル・マン24時間の最上位カテゴリーの新たな方向性が示された。15日、ル・マン24時間恒例のプレスカンファレンスが開催されたが、ここでACOはリンゼイ・オーウェン・ジョーンズへの“スピリット・オブ・ル・マン”の授与、ジャッキー・イクスのグランドマーシャル就任に続き、2020年からのレギュレーションについての発表が行われた。

 カーデザイナーが苦慮しながらデザインを決めるコンセプトムービーに次いで、WECのCEOであるジェラール・ヌーブから説明されたレギュレーションの概要は以下のとおりだ。

○規定のキーポイント

コスト削減:2台をWECの1シーズンで走らせたときの費用を2500万〜3000万ユーロに(近年のLMP1の25%)
ブランドを強力に示す:プロトタイプのコンセプトを“ハイパーカー”に
競技者:OEM、GT/スポーツカーマニュファクチャラー、プライベートチーム
性能のターゲット:予選でサルト・サーキットを3分20秒で走るレベルに(注:今年のポールタイムは3分15秒)
コストコントロール:性能目標に対して上限を設定し、現在のように追加のパフォーマンスを得るために費用はかけられない
環境対策:燃料効率はまだレースの一部とされる
特徴:自動車メーカー、マニュファクチャラーは彼らの技術を磨くために重要な役割を担う。ハイブリッドシステムを設計する可能性も含む
導入タイミング:2020年9月の最初のイベントから導入される
安全性:サバイバルセルの安全性は高められる
ルールの継続性:5年間テクニカルレギュレーションは継続される

■規定の確定は2018年11月に。マクラーレン代表も出席

 特徴的なのはコスト削減、そしてメーカーの個性を重視したデザインコンセプトだ。現行のLMP1の20〜25%と定められたコストは、2台エントリーでル・マン24時間、セブリングでの長距離レース、テストを含むものと定められているが、車両製作、マーケティング、ドライバーのサラリーについては含まない。ただ、まだコストのレベルはプライベーターには高いことは間違いないだろう。

 また、“ハイパーカー”コンセプトについては、すでにFIA国際自動車連盟からの発表でも触れられていたが、GTカーのブランドデザインを保つために空力開発が可能な部分を削減し、空力テストを含むホモロゲーションの取得が必要。また、1シーズン同じボディワークで戦わなければならない。ただし、コスト削減に繋がる可変空力デバイスについて一文が記されている。

 さらに、コクピットのスペース拡大やルーフラインの設定、ウインドスクリーンの拡大などが定められており、現行のLMP1とはまったく異なるものになりそうだ。

 一方パワートレインについては、エンジンについては気筒数、ターボ、NA問わず自由だが、性能のターゲットが定められる。一方ハイブリッドシステムについてはフロントアクスルに搭載され、メーカーが開発をすることも可能だが、システムはFIA/ACOによってホモロゲーションされるほか、プライベーターチームに対しても、ERSの製造者が参加する場合、最低供給台数や性能、コストについて定められる。

 今後メーカー/コンストラクターのワーキンググループとともに規定に関する議論が進められ、このプレスカンファレンスでは2018年11月に規定が確定するとアナウンスされた。また、2024年からの水素テクノロジーの導入もアナウンスされている。

「ル・マン24時間は技術開発の場だ」とACOのピエール・フィヨン会長はコメント。一方でこの『新トップカテゴリー』についての名称については「皆さんに決めていただきたい」と明言を避けた。

 このプレスカンファレンスには、現在GTE含めWECに参戦している各マニュファクチャラーに加え、北米IMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップを率いるスコット・アタートン、アウディを率いたヴォルフガング・ウルリッヒ博士、マクラーレンのレーシングディレクターを務めるエリック・ブーリエらも姿をみせている。今後各メーカーがどういった関心を示していくのか気になる内容だ。

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