【特集】森友検査のキーマンに聞く(2) 改ざんって空前絶後のこと

森友学園が小学校建設を目指していた大阪府豊中市の国有地を背景に、学園の籠池泰典前理事長(左)と安倍昭恵首相夫人(右)

 学校法人「森友学園」の国有地売却問題で検査チームの責任者だった会計検査院の前川猛氏へのインタビュー。前回は当時の態勢や地検特捜部との違いなど全体状況を語ってくれました。「もしあれが公共工事だったら『不当』やったかもしれへんね」とコメントしました。(共同通信・大阪社会部=真下周)

 ▽消えた見積もり金額

 ―共同通信は昨年10月、作成段階の報告書案を入手し、報道した。当初はあったごみの見積もりの金額が最終報告書では消えていた。

 「検査過程のやりとりとか内部進捗の話は明かせない。調査手法が知れたら今後、仕事ができなくなるから。記者が取材手法とか明かせないのと一緒」

 ―どのような姿勢で検査に臨んだか。

 「受検庁(検査対象の省庁)とは普段、信義則や紳士協定の中で検査する。でも今回は違った。こちらの思いからすると、けんかやった」

 ―相当、身構えたと。

 「検査が始まる前から注目度が異常に高かったこともあるし、検査の過程で相手の協力の程度とか、資料が出てくるスピードとかを鑑みて、ちょっと腹に据えかねるという部分はあったからさ」

 「本来は相手の言い分とうちの主張を突き詰めてから報告するのが普通。でも今回は両者を分けて記述した。向こうの言い分は間接話法スタイルでそのまま出してる」

 ―報告書案では金額を入れていた。

 「言える範囲で答えると、こっちはダメ元でも、相手の一番弱いところを突くでしょ。言葉が悪いけど、どうやったら効果的なしばき方になるか、ってこと」

 ―大阪人がかましを入れるみたいに。

 「言ったらそう。だから(途中段階の)中身はチャレンジングなわけ。でもそこまで確度は高くないから、最終的な落としどころは見えていた」

 「最終報告書でも、さまざまな前提を設定した上で処分量(トン数)を試算したと書いてある。そこに根拠不明の処分単価を掛け合わせると、さらに確からしさが下がるから、金額は示さなかった」

 ▽「理由は言われへん」

 ―最大限、相手の条件に合わせた形でも金額を出すことはできたはず。

 「金額を残すって議論は当然あって、局長や審議官もそこに向けて検討を進めてたけど、最終的には採用しなかった。理由は言われへん」

 ―報告書案と最終報告書を比べると、金額だけでなく、指摘の表現なども随所で弱まっている。

 「途中段階の報告書案って、正式に意思決定されていない未成熟な代物。慎重審議の網から漏れていく不確かな内容に軸足を置いて言われても、コメントに困るわ。今回、特殊な状況下の検査だったわけで、報告書案はただのけんかの道具。『デスノート』やったんや」

 「検査やっていると、担当調査官が自分のつくったストーリーに突っ走りすぎて、審議の過程で修正することはままあるねん。最終的に奥歯にものが挟まったような表現になることもあるし」

 ―ごみの算定方法について、深さも混入率も「疑義がある」から「十分な根拠が確認できなかった」に表現が変わった。

 「それは審議の結果としか言われへんけど、『疑義がある』ってまだ調べる余地があるって取られかねないでしょ。組織として最終的にこの表現がベストと思って出してるから。検査院としても、個人的にも、手加減したとは全く思ってないし」

 ―近畿財務局は、国有財産評価基準で規定される「鑑定評価額」とは別に、中立性や信頼性の水準が確保されていない「意見価額」をそのまま通して格安で土地を売却した。この部分の指摘も、最終報告書ではずいぶん弱められた。

 「そこは戦ったんやけど。でも『バスケット・クローズ(例外規定)』があって、例外として鑑定評価額を使わなかったと説明されちゃえば、うちとしても非難する根拠がなくなるんよ」

 「ほんまは言ったらあかんけど、金額の記載も意見価額の記述も、どちらも下から『落としたい』って言ってきたわけ。だから『ぼくもそう思ってたよ』と返すだけ」

 ▽「権限の中で」書いた

 ―検査は終わっていたのに9月の総選挙が影響して公表を先延ばしにしたとの見立てがあるが。

 「それは関係ない。『おまえら、調べが足らん』と上に言われて、10月の段階で自ら現地視察したから。検査が長くなったのはそういう理由」

 ―検査を振り返ってみての感想は。

 「難しかったのは、検査の要請項目だった公文書管理の部分。会計検査でそこを主眼に調べた経験がないやん。こっちは会計経理の妥当性を検証できればいいわけで、行政文書の保管や管理状況についてどこまで言及すればいいか悩んだ」

 「検査院の権限の中で書けることは書いたつもり。今回を機に、もっと検査院の権限を強めるべきとの意見もあるもしれないけど、現場の感覚としては今が一番いい案配ですわ。北風寄りになりすぎると、むしろ入手できる情報は減るから」

 ▽「あんな処分で…」

 ―大阪地検特捜部は背任罪や決裁文書の改ざんにかかる公文書変造罪などについて、関係者を全て不起訴にした。

 「背任はうちもよく似た結論になったし、なんとも言えんわ。ただ改ざんってもう空前絶後のことで、あんな処分で済むんかな、と思う。一国民としても納得いかない感じが残ってしまうな」

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 このインタビュー取材は、財務省が決裁文書改ざんにかかかる調査報告書及び関係者処分を発表した6月4日より前に行っています。

2017年2月、森友学園問題で国会答弁した財務省の佐川宣寿理財局長(当時)と会計検査院が入る合同庁舎

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