長崎の古文書講座 研究、趣味…老若男女が熱心に

 日頃、歴史をテーマに取材していると、古文書(こもんじょ)を目にする機会が多い。そして、専門家や、一般の歴史好きの人たちがそれらを読みこなす姿を目の当たりにする。古文書を読めたら、どんな世界が広がるのだろう。長崎市で開かれている古文書講座に参加した。
 長崎史談会は、原田博二会長を講師に、市中央公民館(魚の町)で月2回公開講座を開いている。現在、上級者向けの講座に15人、初心者向けに39人が在籍している。

▼公用文の書体
 テキストとして古文書のコピーとそれらを活字にした資料が配られた。開いてみるが、最初の文字から何が書いてあるのか見当もつかない。「実際に私たちが書くのは『ぶんしょ』。『もんじょ』と読むと、古い時代を知る上で貴重なものなんです」。講座の初め、原田会長がこれから学ぶ古文書の定義を解説した。
 古代から「もんじょ」はあり、聖徳太子の時代には上流階級の人々は文字が読めたという。平安時代には片仮名や平仮名が作られた。だが、自分の気持ちを自在に字で表すことができるほどに読み書きが普及したのは、江戸時代に入ってからという。
 1630年代、幕府が公用文に使う文字の書体を、京都の青蓮(しょうれん)院に伝わる「御家(おいえ)流」に規定。全国的に書体が統一され、識字の向上に大きな効果があった。講座でも、御家流で書かれた近世の文書を読み解いている。原田会長は「これをマスターすると、全国各地の公用文を読めるようになる」と語った。
 「おおせつけられ、ございきんかぎり、あいつとめそうろう…」。講座は、原田会長が読み上げ、参加者が聞くというスタイル。まずきちんとした読み方を覚え、我流になるのを防ぐという。随所で原田会長の豊富な歴史の豆知識が語られ、より理解が深まる。

長崎史談会の講座で使用したテキストの一部

▼読んで論文に
 講座に集まる会員は、古文書を読んで研究に生かしたい人、趣味として読めるようになりたい人、原田会長の話を聞きたい人など、目的はさまざま。同市かき道3丁目の僧侶、瀬戸智浩さん(30)は先祖代々伝わる古文書を読めるようになりたいと昨年11月に始めた。「最初は苦行だったが、少しずつ読めるようになったかな。先祖の古文書を読んで、論文を書きたい」と抱負を語る。
 約1時間半の講座。初めは、原田会長がどこを読んでいるのかすらも分からなかったが、次第に目で追うことができるようになった。原田会長は「2年くらいはじっくり取り組むこと。歴史の新たな事実を知るには、生の古文書にあたるしかない」と学ぶ意義を話す。

長崎史談会の古文書講座=長崎市中央公民館

▼気長に慣れて
 長崎歴史文化博物館(立山1丁目)が開いている古文書講座の初級編にも参加した。開館当初の2005年から毎年続けられ、これまでに3千人近くが受講。同館の研究員を講師に、同館所蔵の古文書のコピーを教材にして読む練習をしている。
 「こつはなく、気長に慣れ親しめば、そのうちに読めるようになってくる」。この日、講師を務めた大塚俊司研究員(日本中世史)は、約30人の受講者を前に、自身の古文書習得の経験と共にそう語った。
 本年度の初級編講座は計3回。崩し字に親しんで簡単な文書が読めるようになるよう、辞書の使い方や習得のポイントなど、丁寧に教えてくれる。自力で習得するために必要な知識が得られ、独学したい人が手始めに学ぶのに良さそうだ。
 二つの講座に参加し、読みこなせるようになるまでに必要な知識の膨大さに、気の遠くなるような気持ちになった。またそれ以上に、平日の夜や休日にもかかわらず、老若男女の大勢の人が講座を受けに来ていることを知り、長崎市民の熱心さを肌で感じた。

長崎歴史文化博物館の古文書講座=長崎市、同館

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