働きたい場

 雇用の現場で人手不足が続いているという。県内の有効求人倍率はこのところずっと1・2倍前後の高水準▲そんなことを、全く場違いな場所で思い出してしまった。不登校や引きこもりの当事者や経験者が集まった講演会の席。引きこもった人は、働きたい思いはあるのに働けないことで苦しむ。働き手が欲しいのに見つからない職場と背中合わせのようだ▲もし引きこもっている人が人手不足の職場で働き始めたら、めでたしめでたしだろうか。一瞬だけ想像して乱暴だと自重する。人はそれぞれ性格も能力も違う。消耗した規格部品を取り換えるように働く人の数合わせをする発想こそ、繊細な人を引きこもりに追い込む空気に違いない▲引きこもる人が働き始めるとしたら、それは働きたい思いに自信が伴ってきた時のようだ。大切だと感じたのは、例え気分に浮き沈みがあっても、本人の主体性が守られること▲働く人の主体性は、誰にとっても大事だろう。効率性を追求する組織の中で歯車となってシステムを回すより、主体性が発揮できるような働き方の方が、やりがいがあって幸せそうに見える▲本紙「ながさき時評」の筆者、川口幹子さんは先日、「働く場」ではなく「働きたい場」を創出しようと説いていた。人手不足解消の鍵はやはりそこに行き着く。(泉)

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