麻酔で痛み軽減 無痛分娩 県内は1~2% 長崎県産婦人科医会 「リスクや施設の体制確認を」

 出産の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩(ぶんべん)は昨年、産婦が死亡するなど事故の発覚が相次ぎ、政府が実態調査をしている。出産の痛みが軽減できるという大きなメリットがある一方、リスクも指摘される無痛分娩。県内の現状を調べた。
 「リラックスして産んだ。麻酔をしなかったらどうなっていたんだろう。これだったらまた産みたいと思った」。2014年に長男(3)を無痛分娩で出産した長崎市内の女性(37)は振り返る。
 予定日よりも約1カ月早く陣痛が始まった。嘔吐(おうと)を伴うぐらい強くなっていく痛みに、「意識が飛ぶような感じがして、怖くてしょうがなかった」。医師の提案で麻酔を開始。まもなく痛みが消え、周囲と会話できるようになった。
 お産の最終段階になると、おなかの張ってくる感覚や助産師らの声掛けに合わせていきみ、無事に出産。赤ちゃんを笑顔で抱くことができた。
 女性は「本当に大変なのは子育て。そこはちゃんとするんだから、出産の時に少しぐらい甘えたっていいじゃないって思う。なんで痛みを我慢しないといけないのかな。もっと普及してほしい」と話す。
 県産婦人科医会によると、県内で昨年度、無痛分娩で生まれた赤ちゃんは約140人で、全体の1~2%。無痛分娩を1件でも実施した施設は、県内43施設のうち12施設あった。都市部ほど無痛分娩の希望が増える傾向があり、全国的な実施率は約6%という。
 無痛分娩は、脊髄近くの硬膜外腔に背中からチューブを通じて麻酔薬を入れるのが一般的。この方法は40年近く前からあり、お産の進み具合に応じて麻酔の量を調整していく。妊婦がパニックになりやすかったり、軽度の妊娠高血圧症だったりすると、医学的に勧められる場合がある。痛みがゼロになるというわけではなく、和痛分娩とも呼ばれている。
 「痛みは3分の1くらいになると伝えています」。島原市で無痛分娩を実施している山崎産婦人科医院の山崎健太郎院長は言う。同医院では、無痛分娩を積極的に勧めることはないが、希望者にはデメリットも含めて説明、臨月に入る前に実施するかどうかを決めてもらっている。
 自然分娩での出産を経験し、2人目、3人目で無痛分娩にした人からは「良かった」という声が多く、初産で無痛分娩を選択した人からは「やっぱり痛かった」と言う声も聞かれるという。
 無痛分娩を巡っては昨年、大阪府の産院で麻酔の効き過ぎにより呼吸不全になった妊婦が適切な人工呼吸をされずに死亡するなど、事故が各地で相次ぎ発覚した。県産婦人科医会によると、県内で事故の報告はない。山崎産婦人科医院では月に1、2人が無痛分娩で生まれていたが、全国で事故の報道が相次ぐと希望する人は減り、3カ月に1人ほどになっているという。
 無痛分娩では麻酔で陣痛が弱くなり、分娩時間が長くなる傾向がある。そのため、陣痛促進剤の使用や吸引分娩をすることが多くなり、麻酔の管理とともに、陣痛促進剤使用に伴う合併症への注意も必要になる。
 県産婦人科医会は「施設の実績や人員体制を調べて、安全性を確認してから希望してほしい」と呼び掛けている。

無痛分娩のメリットとデメリットを理解することが大切だ(写真は本文とは関係ありません)

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