【憲法って何だろう?】権力縛り 自由守る最高法規

 中央政界で憲法改正論議が活発になっている。戦力不保持を定めた9条を変えるかどうかに注目が集まりがちだが、そもそも憲法とはどんな存在なのだろう。熊本大と熊日の共同年間企画の初回は、法学部憲法ゼミの3年生(21人)と一緒に近代憲法の成り立ちをひもとくところから始めたい。テーマはずばり「憲法って何だ」-。(渡辺哲也、並松昭光)

【議論】国民も守る「義務」あるの?

 ゼミは、A~C班が近代に欧米で生まれた立憲主義の歴史や、憲法が持つ意味を報告して始まった。まとめ役はD班。近代以降の憲法を「国民の自由や権利を守るために、統治の基本構造を定め、国家権力を制限する最高の法」と定義した。

 では、日本はどうか。D班が日本国憲法と戦前の大日本帝国憲法(明治憲法)を比較しながら確認を試みた。

 現行憲法は基本的人権を「永久の権利」(11条)として国民の自由を守り、生存権(25条)などで現代的な価値の「平等」も保障している。明治憲法にも国民の権利・自由は書かれていたが、法律でどこまでも制限することができた。統治のルールも立法、行政、司法の三権を分立させた現憲法に対し、明治憲法は天皇が三権全てを掌握していた。

 「日本国憲法には最高法規(98条1項)を守る工夫がされている」。D班は具体例として、政権の意向で簡単に変えられないよう高いハードルを設けた改正手続き(96条)や、最高裁が法律や行政行為をチェックする違憲審査権(81条)を挙げた。

 「日本の憲法は近代憲法の理念を備えている」。この認識を学生全員が共有できた。

    ◇

 討論に入り、司会の学生が「国家権力を縛るのが憲法なら、国民は憲法を守らなくていい?」と投げ掛けた。高校までに、教育(26条2項)、勤労(27条1項)、納税(30条)が「国民の三大義務」と習った記憶がある。学生たちは真剣な顔つきで条文と向き合った。

 「第3章のタイトルが『国民の権利及び義務』となっている」「三大義務とも条文に『義務を負ふ』とある」「国民が統治に従うのは当然」…。七つの班全てが「一部にせよ国民に守る義務がある」との意見に傾いた。

 「さっきまとめた憲法の定義に『国民の権利を制限する』とはなかったはず。矛盾しないか?」。大日方信春教授が、憲法の尊重と擁護義務(99条)を確認するよう促した。

 99条は統治者に向けられ、「国民」の表現はない。「それが決定的に重要だ」と大日方教授。「国民が統治に従う必要はあるが、その統治機関をどう縛るかが憲法。立憲主義の視点を徹底するなら一見、国民に義務を課しているように思える条文も『義務』と読むべきではない」

 納税と教育を受けさせる義務は、いずれも条文に「法律の定めにより」とある。学生の一人が手を挙げた。「この表現は、義務を課すなら法律を作れと憲法が言っているのだと思う」

 学生は、三大義務のうち勤労だけに「法律の定めにより」との表現がないことにも触れ、「抽象的な宣言と捉えたほうがいい」とも付け加えた。勤労を国民の義務と読むと、奴隷的拘束の禁止(18条)など他の条文に触れかねない、というのが理由だ。

 「その通り」。大日方教授がうなずき、締めくくった。「国民の権利を制限し、義務を課すことができるのは、憲法に反しない内容で国会が制定する法律だけ。憲法で『法律の定めにより』とない義務規定は、訓示のようなものと解釈すべきなんだ。仮に、憲法の条文で国民の行動や内心を直接統制しようとする動きがあるなら、それは立憲主義に反していると考えた方がいいね」

【もっと深く】国会と内閣 緊張関係注視を

大日方信春教授

 憲法(Constitution)とはもともと、「国家の基本構造」を意味しています。明治維新後の新政府樹立で、わが国が憲法先進国の英仏ではなく、君主国でありながら憲法を持つプロイセン、オーストリアに伊藤博文らを派遣して憲法を学んだのは、天皇中心の国家体制を確立するためでした。

 日本国憲法は太平洋戦争後、連合国軍総司令部(GHQ)の担当部署で起草され(マッカーサー草案)、帝国議会の審議を経て制定されました。統治の構造として国家権力を「政治的権力」と「司法的権力」の二つに分け、まず国民の権利侵害を公平に救済できるよう司法を独立させました(76条)。

 その上で、政治的権力のうち内閣の権限(65条)について、73条に内容を列挙する形で制限しています。内閣を戦前の天皇権限を引き継ぐものとして警戒している表れです。

 一方、民主的な政治的権力の国会には包括的な権限を与え(41条)、細かく統制する規定は見当たりません。日本国憲法は国会に信頼を置いていると言えるでしょう。

 対照的なのが米国憲法です。「選挙された君主」と言える大統領に包括的権限を認める一方、市民の代表で構成する議会の権限は内容を明記して制限しています。米国は革命を経験しており、市民が時に激情に駆られて統治の不安定をもたらしかねない、と警戒しているのです。

 日本国憲法はよく、立法、行政、司法が独立した「三権分立」と言われます。しかし、首相にも国会への議案提出権(72条)があり、閣僚の過半数は国会議員から選出しなければなりません(67、68条)。単純な三権分立ではなく、国会と内閣が一致した方針の下で権限を行使する「議院内閣制」を採用しています。

 議院内閣制は政策を円滑に実現できる利点がありますが、国会と内閣の緊張関係をどう保つかは課題です。その点を、主権者の国民が注意深く見ておく必要があるでしょう。(熊本大・大日方信春 教授)

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