かなわなかった対戦、その先に 2人のボクサー 田口良一と田中恒成

By 稲葉拓哉

ライトフライ級・世界ボクシング協会(WBA)王者田口良一(右)と世界ボクシング機構(WBO)王者田中恒成(左)

 ライトフライ級の世界ボクシング協会(WBA)王者田口良一(31)は、大みそかに国際ボクシング連盟(IBF)王者ミラン・メリンド(フィリピン)との団体王座統一戦を迎える。田口との統一戦を熱望していた世界ボクシング機構(WBO)王者田中恒成(22)は9月の防衛戦で両目を負傷、王座を返上しフライ級へ。お互いのベルトをかけた統一戦を望みながら、対戦がかなわなかった2人。プロボクサーの道を疾走する彼らに、それぞれの思いを聞いた。

 ▽田中戦白紙、別の統一戦へ

 最初に田口との統一戦を口にしたのは田中だった。5月に行われた16戦16KOの強敵アンヘル・アコスタとの防衛戦では、試合前から田口との統一戦の話が出るほどの盛り上がりをみせた。それに応えるように、7月の防衛戦で田口はランキング1位の挑戦者ロベルト・バレラをKOで下した。試合後二人はリング上に並び立ち、統一戦への機運を揺るぎないものにしたかに見えた。ところが9月の防衛戦で田中はKO勝ちしたものの両目の眼窩(がんか)底を骨折。年末の試合には間に合わず、統一戦は白紙となってしまった。

ワタナベボクシングジムでシャドーボクシングする田口良一=2017年12月15日

 田口の所属するワタナベジムはJR山手線五反田駅のホームから見える場所にある。初めてあった田口は、前の取材が長引き予定時刻から遅れたことをきちんと謝る礼儀正しい選手だった。早速インタビューを始めた。

 ―もともとはWBO王者田中恒成選手と日本人王者同士の統一戦を望んでいましたね。田中選手の負傷で白紙となってしまいました。率直な思いを聞かせてください。

 田口 田中君がその後フライ級に階級を上げてしまったので、自分も上げない限り彼との対決は実現しない。お互い勝負したいと発言していたし、実現させる気だったので残念な気持ちです。

 ―田中選手との対戦はかないませんでしたが、年末の相手はIBF王者メリンドです。意気込みを。

 田口 メリンドは5月に八重樫東(やえがし・あきら)さんに1回TKO勝ちという衝撃的な試合をした選手。あの試合でファンに強烈な印象を残したと思います。それだけに盛り上がる試合をしたいと思っています。

 ―今回は田中選手のWBOではないですが、WBAとIBFの団体王座統一戦になりますね。

 田口 いつも勝ちたい思いはありますが、今回は特にその気持ちが強いです。

 ―試合ではどういうところに気をつけたいですか。

 田口 パンチをきかせてくるしカウンターもうまい。常に動いて相手のパンチを食らわないようにしないと試合はうまくいかないと思います。

記者会見で王座を返上してフライ級に転向することを発表した田中恒成(右)=2017年12月6日、名古屋写真映像部坂本佳昭撮影

 ▽謝りに東京まで行った田中

 一方、フライ級への転向を表明した田中は、田口との統一戦が白紙になったことについて、インタビューで正直な気持ちを話してくれた。

 ―王座返上を決めたのはいつですか。

 田中 11月の下旬です。田口さんとメリンドの試合が決まったときはまだライトフライ級に残ろうと思っていました。所属ジムの畑中会長にもその気持ちを伝えました。

 ―階級を上げると決めたのはなぜですか。

 田中 もし田口さんとの統一戦が実現するとしても、2018年の年末になってしまう。会長も反対しました。減量が厳しい中、お互いけがのない状態で1年後に試合をする自信がありませんでした。

 ―悔しい思いはありましたか。

 田中 本当は田口さんと戦い、悔いを残さずライトフライ級を卒業したいと思っていました。でも、それはかなわなかった。自分の負傷で統一戦ができなくなったことは、周りのスタッフやファンの方々よりも田口さんに対して申し訳ないという思いが強いです。

 ―階級を上げると発表する前日、名古屋から東京にいる田口選手のところへ謝りに行ったと聞きました。どんな話をしたのですか。

 田中 「逃げた訳ではないし、仕方のないこと。だからそんなに謝らないで」と言ってくれました。ジムの前で一言だけ謝るつもりが、フランクに話そうとカフェに連れて行ってくれたんです。話しやすい雰囲気をつくってくれました。

 ―大みそかの統一戦に向けて田口選手に伝えたいことはありますか。

 田中 直接謝ることができて少しすっきりすることができました。俺も早ければ来春にあるフライ級の試合で頑張ります。田口さんには頑張ってほしいし、勝ってほしい。応援しています。

テーピングを巻く田口良一=東京都品川区、2017年12月15日

 ▽3階級制覇を

 田中は以前、試合後の選手同士はお互いを認め合い、健闘をたたえ合うものだと話していた。田口とは直接戦ったわけではないが、今、同じ感情を抱いているという。田口もインタビューの中で田中の今後にエールを送った。

 ―フライ級へ転向した田中選手にどのような思いを持っていますか。

 田口 別の階級を進むことになったけど、フライ級でもチャンピオンになってほしいと思います。3階級制覇、是非実現してほしいですね。

 ―それでは最後にもう一度、大みそかのメリンド戦にかける思いを教えて頂けますか。

 田口 厳しい試合になると思いますが、終わったときに自分の手が挙がっていることを信じています。うまくコンディションを維持して試合を迎えたいと思います。

 大みそかの試合は田中も名古屋から観戦に来るという。試合はもちろんだが、2人が試合後にどのような会話を交わすのか楽しみだ。(敬称略、年齢などは取材当時、共同通信写真部・稲葉拓哉29歳)

▽取材を終えて

 以前から田中恒成の記事でその存在に触れていた田口良一。残念ながら今回2人の王座統一戦は実現しなかったが、インタビューの中でお互いを認め合う姿が印象的だった。

過去記事はこちら

田中恒成選手の写真はこちら

田口良一選手・WBAとIBFの団体王座統一戦の写真はこちら

© 一般社団法人共同通信社