インタビュー場所の名古屋市にあるボクシングジム近くのファミリーレストランに現れた田中恒成(22)は真っ赤なTシャツにキャップを深くかぶっていた。最初は大学生活の話題だった。
▽大学に通う意味
―大学も最終学年ですね。学生生活は楽しいですか。
行ってみたら面白かった部分もありますが、決して楽しいとは思っていないです(笑)。
―意外ですね。面白い部分とはなんですか。
大学に通って良かったことって話したことありましたっけ? 大学OBが応援してくれたり、親身になってくれるゼミの先生と出会えたり、人とのつながりですね。
―確かにそれは学校に通わなければ得られないものですね。
でも、プロのボクサーとしては大学に費やす時間を練習に回した方が絶対いいはず。そうしなかった理由を後々見つけられたらいいと思っています。
―4年間の大学生活に見合った理由が見つかるといいですね。
俺にはボクシングという、今やらなきゃいけないことがあります。ここに障害を与えないようにどう切り抜けていくかっていう、例えば時間の使い方の勉強になるんじゃないかなって思ったりはしています。それに、入学したんだから最後までって思いもある。大学生チャンピオンって初めてだと思うし「どういう形でも、一線でできるよ」っていうメッセージをもうちょっと発信できればいいですね。
それと大学に通って良かったことがもう一つ。現実を思い知らされたこと。大学で、周囲からチャンピオンチャンピオンとなるのかと思ったらそうはならず、普通の大学生。「ああまだまだだ、もっと頑張らなきゃ」と教えてくれた場所でした。
話は理想のボクサー像へ。以前は「世界一応援されるボクサーになりたい」と発言していた。その後変化はあるか聞いてみた。
質問を聞いた田中は小さなノートを取り出してテーブルの上に広げて見せてくれた。丁寧な文字が並ぶ。「俺は夢を叶(かな)える! だからみんなも俺に夢を見てくれ。もっと楽しませます!」。このノートのことを聞いてみた。
▽チャンピオンの夢ノート
―いつから書き始めたのですか。
チャンピオンになった時からですね。毎日書くようにページの上に日付つけていますが、それはなかなか(笑)。練習終わった後とかに書いています。
―どんなことを書いているのですか。
気持ち的な部分、例えばこうやって話させてもらった中で、質問に対して思ったり、心に残ったりすることがあればそれを書く。あとは技術的なこと、人から言われたこと。ドラマをみてこんなこと思ったとかも、ボクシングにつながるのであれば書きます。
―ノートにある夢は、田口選手との統一戦を指しているのですか。以前から話していた5階級制覇も目標ではないのですか。
今一番戦いたい田口さんとの統一戦も、達成できればそれは通過点でしかない。5階級制覇も、今自分のいる階級でチャンピオンになることを続けていけば、自然とそうなると思っています。目指している訳じゃない。
―「挑戦しまくりたい」と話していたそのままですね。
チャンピオンが夢から目標、そして現実になった。2階級制覇もそう。遠いと思っていたものが近づいてきて、それが目標になりクリアしなきゃいけないものになる。実現したらそれは通過点になる。このまま行けるところまで行きたい。次から次へと目標が生まれる。挑戦するときには夢が目標です。
帰り際に「有り難うございました。またジムで取材待っています」と笑顔を見せた田中。挑戦を続ける姿は、これからもファンを楽しませてくれそうだ。(敬称略、年齢などは取材当時、共同通信写真部・稲葉拓哉29歳)
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