【この人にこのテーマ】〈ねじ業界の現状と課題〉《日本ねじ工業協会・椿省一郎会長(互省製作所社長)》技能検定通じ人材育成、国家資格化目指す AIなど最先端技術活用し生産改革

 ねじは〝産業の塩〟と称されるように、自動車や重・弱電業界、建機や工作・産業機械、建設・土木など、あらゆる分野の締結に使われ、日本のものづくり産業を支えてきた。ねじ業界の現状と課題について、日本ねじ工業協会の椿省一郎会長(互省製作所社長)に話を聞いた。(伊藤 健)

――まずは協会の概要から。

 「1960年(昭35)にねじ製造技術の向上や設備・経営の合理化促進、業界の発展を目的に発足した。協会の活動としては、ねじ製造技術向上の技能検定制度やねじ関係規格の国際標準化への対応、ねじ業界の広報・PR活動、このほか次世代の人材を育成する未来開発・パブリシティ委員会の活動などが主な事業。全国の主要なねじ、ボルトメーカーと関連企業で組織している。2018年4月時点で正会員153社、賛助会員45社が加入している」

――ねじ業界の市場規模、経済動向について。

 「17年暦年のねじ生産は速報ベースで前年比6・1%増の319万7千トンの見込み。08年以来9年ぶりの高水準であり、販売金額も同様に前年比4・6%増の約8900億円に増加した。リーマン・ショック以降、ここ数年は回復基調にあるが、かつてのピークの販売金額はおよそ1兆1千億円程度だった。このうち約2千億円程度が需要家の海外移転に伴う現地調達、海外生産に切り替わった分とみている。ピーク時に比べて国内の需要は空洞化が進んでいるが、海外生産分を含めれば、市場規模はおおよそ横ばい推移といったところだ」

――協会で注力している事業については。

 「11年から始めた協会認定のねじ製造技能検定制度の国家資格化を目指している。ねじの製造は、大量生産の中で安定的な品質を保ちながら、安定的に製造する技能が求められている。加工が難しい素材でもいかに安定的に効率よく製造するか。この技能の伝承と向上を目的としており、国家資格に格上げとなれば、ねじ業界全体が社会的地位を大きく向上させるだろう」

 「技能検定試験では、会員企業の技術者も実際に実機試験の検定員として参加している。同じ機械でも技術者同士で使い方も様々であり、受験者も検定員も非常に刺激されている。同業同士ではあまり見せ合うことはないため、それらを各社にフィードバックすることで技術や技能、ノウハウなどの共有化を通じて人材の質の平準化につなげていきたい。ねじ業界の全体的なレベルアップ、底上げになると期待している」

 「人材育成、人づくりは喫緊の課題である。少子高齢化が加速してねじ業界に入る若年入職者数も年々減少するとみている。ねじ産業の市場規模を維持していくためには、AIやIoTなどの最先端技術を活用した生産改革とともに、人材の質を上げる〝人づくり〟が急がれている。当協会では技能検定制度などを通じて、少しでも人づくりに貢献していきたい」

――社会への広報活動にも力を入れている。

 「未来開発・パブリシティ委員会の活動では、ねじ業界の社会的認知度の向上や情報を発信し、一般の人々にもねじのことを知ってもらうため様々な活動を進めている。15年の協会創立55周年では、新しい取り組みとしてねじフォーラムを開催した。また55周年の時に展示会で使用した当協会のロゴマーク『この世はねじでできている』を作成した。会員企業はこのロゴマークを無償で利用できるため、名刺や販促ツールなどに活用して、さまざまな産業、分野に向けてねじ産業の認知度の向上につなげたい」

 「来年は姉妹団体である日本ねじ研究会が設立50周年を迎える。また当協会も翌20年には設立60周年を迎える。未来開発・パブリシティ委員会などで進めている人材育成、人づくりの成果がしっかりと実るように進めていきたい」

日本のねじの品質向上へ/素材業界との共同研究提案

――日本のねじ産業の強みは。

 「日本のねじ、ボルトは安定的な品質や供給、また高強度の材料を加工する技術力や表面処理の技術力、高精密な金型に基づく精度面の分野においては、世界でもトップクラスにある。さらに多品種・少量生産、短納期にも対応できる点も強みである。しかし海外のねじメーカーの技術力も急速に高まっている。特にJISなど一般的な規格で大量生産できる建築用のねじなどは、アジア諸国から低価格の輸入品が国内に多く流通しており、国内の市場価格の動向に大きく影響を与えている。貿易統計によると、17年暦年のねじやボルト、ナット類の輸入量は、前年比5%増の25万トン弱と4年ぶりに増加した」

――協会では海外交流も行っている。

 「07年から日本、中国、韓国、台湾、香港の5地域のねじ協会との交流大会を各地持ち回りで開催し、市況や業界動向などを報告して意見交換を行っている。また16年からはドイツのねじ協会とも交流事業を開始した。ドイツのねじ産業への視察や、昨年はドイツのねじ協会関係者らが来日して日本のねじ業界を視察した」

 「16年にドイツの研究現場を視察した際、研究内容や活動目的が非常にレベルが高いことに驚いた。特に印象に残っているのは、〝技術〟と〝技能〟の両面でしっかりと研究開発、向上を進めていた点だ。技能面の向上はさることながら、技術面の研究としては、素材分野の研究を多くの大学や研究機関など行っており、ねじ業界の技術者と、鉄鋼など素材業界の技術者が共同で行っていた。我々も素材部分の研究をもっと進めなければならないと改めて気付かされた」

――鉄鋼や非鉄などの金属、素材業界に期待することなどは。

 「我々が製造するねじの品質の根幹はやはり材料にある。主な材料である日本の鉄鋼の品質は世界でもトップレベルであり、我々も安心してねじを製造できることに感謝している。我々は様々な産業で締結部品として使用されているねじの役割の大きさと重要性を社会に伝えるとともに、市場の高度化要求に応えて品質向上に日々取り組んでいる。これからもグローバルな市場経済の中で、日本製のねじが常にトップレベルであり続けるように、良質な鉄鋼の開発と供給を切にお願いしたい」

 「またねじの品質の根幹である、材料分野、熱処理分野の研究を素材業界と共同で継続的にできればと考えている。ねじの内部の材料、素材分野は我々だけでは研究することができない。鉄鋼メーカーなどと継続的な交流、共同研究を提案していきたい」

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