ERC:第4戦キプロスは0.6秒差の劇的決着。地元出身スペシャリストが初優勝

 WRC世界ラリー選手権への登竜門にも位置づけられるERCヨーロッパ・ラリー選手権の第4戦キプロス・ラリーが開催され、同イベント5勝を誇る名手ナッサー・アル-アティヤー(フォード・フィエスタR5)や、前戦アクロポリス勝者のブルーノ・マガラエス(シュコダ・ファビアR5)らを抑え、地元スペシャリストのシモス・ガラタリオティス(シュコダ・ファビアR5)が、0.6秒差決着のドラマティックなERC初優勝を飾った。

 伝統のアクロポリスに続き、6月16~17日に開催されたキプロスもまた、かつてはWRCのカレンダーに組み込まれて名を馳せた難関グラベルとして知られるイベント。今回のステージ群もアクロポリスに負けず劣らずのラフグラベル路を中心に、一部高速ターマックも設定。さらにデイ2ファイナルループには懸賞金の掛かる“ゴールデン・ステージ”が2本用意された。

 ラリー開始の土曜午前に飛び出したのは、ERCではおなじみ今季の選手権リーダーであり、“ロシアン・ロケット”の異名を持つアレクセイ・ルカヤナク(フォード・フィエスタR5)。そのスピードスターに対し、昨季もこのイベントにスポット参戦し前人未到の大会5勝目を記録したアル-アティヤーが、ポップオフバルブの不調を抱えながらも喰らい付く展開となる。

 しかし、ミッドデイ・サービスを挟んで始まった午後のループで早くもラリーは動きを見せ、ターマック路面の高速セクションに差し掛かったルカヤナクのフィエスタは、路肩の構造物にでもヒットしたかホイールのリムを破損し、コントロールを失ったまま激しくバリアにヒット。

 ロシアン・パフォーマンス・モータースポーツのクルーふたりに怪我はなかったものの、マシンの損傷が激しく再出走もかなわずここでリタイアに。

 これで6勝目の記録へ視界が開けたアル-アティヤーだったが、元PWRC、WRC2王者でダカール・ラリー覇者でもある大ベテランは、ルカヤナクが去ったステージを皮切りに自らも複数のパンクに見舞われペースダウン。

 デイ1最終ステージとなるSS6ではついにスペアタイヤも底を付き、なんとか3輪状態でサービスへと帰還。リタイアこそ免れたものの、総合4番手で初日を終えることとなった。

 その有力ドライバー勢とは対照的な走りで初日首位に躍り出たのは、シュコダ・モータースポーツのバックアップを受ける若手ドライバー、ユーソ・ノルドグレン(シュコダ・ファビアR5)で、2週間前に度重なるパンクでリタイアに追い込まれたアクロポリスとは一転。

 学習の効果を感じさせるステディな走りに徹し、2番手につけた地元スペシャリストのガラタリオティスに4.6秒、セットアップに苦しみながらも「ルカヤナクがクラッシュしているのを見て、このラリーは生き残る必要がある、とふたたび戦略を切り替えた」と語る3番手のマガラエスに8.8秒のマージンを築いて、夜を越すこととなった。

 迎えたデイ2。最初の2ステージでも細心の注意を払い、リードを7.3秒にまで広げるなど慎重なドライビングに徹していたノルドグレンだったが、続くSS9で彼のファビアを悲運が襲う。

 特段には難易度の高くない中速左コーナーへと進入したマシンは、スライドが収まらずにロールオフ。フロントスクリーンを破損するダメージを負ったファビアはこれで数分を失い、入賞圏内から脱落。

 さらに続くSS10では一般車両を巻き込んだアクシデントを引き起こし、主催が事態把握と現地整理のため、SS11をキャンセルする事態にまで発展してしまう。

 これで自身初のERCラリーリーダーに立った地元のヒーロー、ガラタリオティスだったが、ドラマはここで終了とはならず。正午のサービスまでに2番手マガラエスが12.7秒、3番手のアル-アティヤがハードプッシュで18.3秒差と、猛烈なプレッシャーを掛けてくる。

 そしてラリーの最終ループに突入した3台は、ここでマガラエスがERCポイントを優先し完走狙いへと切り替えたため、キプロスの国内選手権登録となるガラタリオティスと、新記録のイベント6勝目を狙うアル-アティヤーの一騎打ちの様相となっていく。

 キャンセルされたSS11に続いてSS12のゴールデンステージ1、最初の懸賞金ステージ11.49kmで猛烈なドライビングを見せたダカール覇者は、FIAクロスカントリーラリー王者としてラフロードへの適性を発揮し、マガラエスに17秒、ガラタリオティスに20.6秒の圧倒的タイム差をつけるステージベストをマーク。最終SSを残してついにラリーリーダーの座に躍り出る。

 この勢いのまま、アル-アティヤー、マガラエス、ガラタリオティスの出走順で始まったSS12のゴールデンステージ2は、暫定首位アル-アティヤーを迎える機運が高まるなか、最初にフライングフィニッシュに到達したのはなんとマガラエス。

 アル-アティヤーのフィエスタは前日の右リヤに続き、ステージ開始直後に右フロントがスローパンクチャーに見舞われペースダウン。なんとかダメージを最小限に留めフィニッシュまでマシンを運ぼうとしたアル-アティヤーだったが、マシンに負荷がかかりすぎると判断してステージ中のタイヤ交換を決断し。この瞬間に新記録の6勝目が霧散した。

 これでガラタリオティスの地元勝利が決まったかに見えたが、ここでもキプロスのスペシャリストに試練が襲い、彼のファビアもまた右フロントのパンクでペースダウン。キロ当たりコンマ数秒を失い、安全運転に徹したマガラエスとのタイム差が注目されたが、スタート前に11.4秒あったマージンをほぼ使いきり、0.6秒というERC史上3番目の僅差でフィニッシュ。

 ここ10年で初となるキプロス出身のウイナーが誕生すると同時に、2位に入ったマガラエスがルカヤナクを逆転し、シーズン前半戦終了時点で初のポイントリーダーの座についた。

 そして4位までドロップしたアル-アティヤーに代わり、最後の3位表彰台にはハンガリー出身で、前戦アクロポリスでも2位を獲得したキプロス初参戦のノルベルト・ヘルツェグ(シュコダ・ファビアR5)が入り、このラフグラベル戦でもシュコダ・ファビアR5が表彰台を独占している。

 続くERC第5戦は昨季からカレンダー入りした新イベント、7月20~22日のラリー・デ・ローマ・キャピタルのターマック戦となり、伝統のコロッセオをバックにローマ市街の中心部でセレモニアルパレードが開催される。

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