あれは3年前の紅白だっただろうか。不勉強ながら名前も知らなかった彼女の歌声に鳥肌が立ち、鮮烈にその名を心に刻むことになった。島津亜矢。調べてみればデビューはなんと15歳、それ以前から数々のコンテストでならした演歌界のホープ、天才少女だったそうだ。
そんな彼女が演歌の枠を超え、古今東西の歌謡曲の傑作をカバーしたアルバム「SINGER」。本作は、4作目を数えたこのシリーズをタイトルに開催した、自身初の「演歌を歌わないライブ」の模様を、余すことなく収録した一本だ。
どんな歌手との比較もはばかられるほど圧倒的な島津の歌声。その技術力の高さは、カバー曲を歌う今回さらに如実で、「この楽曲をこの音域で、こんな風に歌うのか!」と、徹頭徹尾開いた口が塞がらない。どこにも揺らぎがみつからないくらい完璧で、いつまでも聴いていたくなる魅力に満ちている。
それなのに、歌の間にたびたび挟み込むのは、「皆様ありがとうございます」「緊張しています」「ピアノの○○さんをご紹介します……」と、感謝の心と礼を忘れない、腰の低ーいMC。古き良き日本の演芸を思わせるそのスタイルとのギャップが心地よく、まるで適温のお湯に浸かっているかのようにリラックスして楽しむことができた。
(テイチクエンタテインメント・4630円+税)=玉木美企子