【関西鉄鋼業の展望と課題】〈(5)値上げ・下〉形鋼流通、「実質赤字」に危機感 加工賃の適正化課題

 メーカーの値上げが相次ぐ中で、仕入れ値が上昇している流通も売値引き上げに必死だ。

進ちょく状況、品種により温度差

 関西地区・流通筋の値上げの進ちょく状況は、品種によって温度差がある。形鋼は、2月契約分のメーカー値上げが転嫁できず、流通の採算は徐々に悪化している。「逆ザヤにはなっていないが、経費を賄えず実質赤字」と足元の状況を説明する。ただメーカーが6月に再値上げの意向を示したことでムードが変わりつつある。「値上げは無理でも今以上の安値には応じられない」との声が広がりつつある。

 一方、仕入れ値高の転嫁が順調に進んでいる品種もある。店売りのSC材と角形鋼管だ。SC材を含む特殊鋼は、自動車、建機、工作機械と大手ユーザーが軒並み好調。メーカーは店売り向けの引き受けをカットしているため、市中在庫の品薄感が昨年末以来続いている。需給がタイトな中、16年度下期からの累計で2万5千円のメーカー値上げを店売り販売では、ほぼ転嫁し終えている。ただ流通の扱う中小口のユーザー向けは、店売り販売ほど売値への転嫁が順調ではない。ヒモ付き価格が店売りほど上がっていないためだが「ユーザーはヒモ付きを盾に値上げに抵抗している」とする。

 角形鋼管も仕入れ値高の転嫁がほぼ完了した品種。東京や名古屋に比べても大阪相場の上げは着実に進んでいる。この背景には「大阪は角形鋼管を扱う流通に利に聡いオーナー系が多く、仕入れ値が上がれば多少のタイミングのずれはあっても売値も上げてきた。東京や名古屋にもオーナー系の大手流通はあるが、経営者の交代で利益重視の意識が薄れているようだ」とする。

加工賃の改定進む

 コイルセンター(CC)業界では、不採算化している委託・賃加工をめぐり、その受注価格が見直されている。賃加工や委託加工には自動車・電機・鋼管メーカーなどユーザー向けのほか、問屋など仲間関係から受注することもある。委託・賃加工はコスト変動に合わせ適正な加工賃を維持している取引もあるが、従来の商習慣から加工賃が固定化され、不採算化しているケースもあった。

 賃加工が不採算化する理由の一つは、受注ロットがこれまでに比べ縮小していること。かつては大ロットで受注していた案件が、需要構造の変化などに伴い、小ロット化が進んだ。受注ロットが小さくなったにもかかわらず、トン当たりの加工賃が従来と変わらず、不採算化した取引となってしまう。

 こうした中、人件費や運賃、スキッドなど副資材などの諸コストが上昇し、さらに採算を圧迫。賃加工の不採算化を改善しようとCC業界では見直しの動きが進められている。

 また、厚板溶断業界では、全国厚板シヤリング工業組合が建材分野を中心に商習慣の是正を通じて「適正加工賃の確保」に取り組んでいる。これまで口頭で契約した案件を書面化することなどを呼び掛けるもので、数年間による取り組みの結果、業界に徐々に浸透しつつある。

 こうした賃加工などの不採算化している取引を是正する動きは、行政府も後押ししている。経済産業省は下請け取引の適正化に向けた取り組みを推進し、昨年2月には金属産業取引適正化ガイドラインも更新された。

線材加工も値上げ途上

 線材加工メーカー各社は母材価格の高騰や輸送費の値上がりなどを受けて、昨年初比でトン当たり2万5千~3万円の値上げを段階的にアナウンスしている。問屋各社は伸線メーカーの値上げに対して8~9割をユーザーへ転嫁。ナマシ鉄線や鋼索などは一定の価格是正があったものの、溶接金網や高力ボルトは販価是正に時間を要している。

 溶接金網最大手のトーアミ(大阪府四條畷市)は、陥没価格を含めた価格是正(昨年初比3万円以上)に乗り出している。北川芳仁社長は「材料高を製品に転嫁している最中だ」と話し、さらなる販価是正を推し進めている。溶接金網業界は供給過多で過当競争が多い中、同社はシェアを落としてでも適正価格での販売を重視し、サービス・品質・安全面での差別化を図りながら採算改善に取り組んでいる。(おわり)

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