災害時活躍、米海軍病院船が東京寄港 マーシー号、最先端医療を洋上で提供

16日、赤間二郎・内閣府副大臣(前列左から5人目)も視察に訪れ、ブレッツ大佐(前列右から5人目)ら関係者とマーシーの前で記念撮影

日米共同訓練も実施

米国海軍の病院船「マーシー」がこのほど日本に来航。16日には東京都大田区の大井水産物ふ頭で報道陣への公開が行われた。また翌17日には日米共同の災害医療搬送などの訓練も行われた。手術用ロボットなど最新技術を備えた、まさに「洋上の病院」の全貌を追った。

マーシーは元々、1976年に建造されたタンカー。洋上での医療対応が必要と感じた米海軍が改造することを決め、1986年に米海軍に引き渡された。サンディエゴを母港としている。戦時に洋上で兵士の治療を行うのが本来の任務。しかし戦時でない場合には世界中で行われている米軍の災害救援・人道支援に活用されている。「パシフィック・パートナーシップ」と呼ばれるアジア諸国を訪問しての訓練も行っており、今回の東京寄港となった。

船の規模は全長272.6m、全幅32.2m、排水量は6万9360t。1000のベッドのほか、12の手術室にICU(集中治療室)を4つ、さらには除染室も備える。災害時は港への接岸ができない可能性が高いことから、2機のヘリコプターの離発着ができる甲板のほかボートも2艇用意。船を横付けした患者の受け入れも可能だ。必要があれば除染室で除染をしたうえで受け入れる。

ロボット手術装置「ダビンチ」

最新のロボット手術装置

設備は船内とは思えない、本格的な病院そのもの。レントゲン室は4つあり、CTスキャンも設置。全身を25秒で調べられる。手術室では心臓バイパス手術と移植手術以外のことは全てできる充実ぶり。特に目を引くのは世界初の海上設置のロボット手術装置「ダビンチ」。医師はモニターを見ながらコントローラーを用いてロボットを操作・施術する。

「ダビンチ」の内部にはカメラや手術器具のアームが伸びる

ロボットにはカメラや施術器具を動かすアームがある。実際に4例、胆のう摘出などでダビンチを用いた施術が行われた。2月に設置されたばかりのこの装置。切り口が小さく痛みが少ないという利点もある。現在のルールでは執刀医は現地立ち合いが必要だが、将来は遠隔操作による手術も視野に入っているという。

「ダビンチ」を用いた手術のデモ。手元に上部のモニター映像が映り、コントローラーで操作

また輸血を見込み、血液(血小板)を保管する血液バンクも設置。全血液型に対応できるO型の血液1000パックをサンディエゴで積み、マイナス80℃で保管。冷凍で10年保存可能となっている。使用時は解凍機にかけ、保存料であるグリセリンを取り除く。さらには手術のトレーニングも可能。コンピューター制御されたマネキンがあり、泣いたり痛がったりという反応も見ながらの訓練を行えるようになっている。

トレーニング用のコンピューター制御のマネキン

米海軍パシフィック・パートナーシップ2018ミッションコマンダーであるデビッド・ブレッツ大佐は16日の報道陣による取材に対し、「陸の施設が災害で破壊された場合でも、洋上で患者を受け入れることができるのは大きい」と語る。米海軍にはもう1隻の病院船があり、2017年にハリケーン被害を受けたプエルトリコにも派遣されている。

陸上のインフラ破壊の影響を受けずに先端医療を提供できる病院船。日本でも2013年度から実証実験が行われている。しかし自衛隊の艦船や民間船に医療設備を載せるというもので、病院船の建造を進めているものではない。16日にマーシーを視察したという小此木八郎・防災担当大臣は19日の記者会見で「得られた知見を生かせるよう、関係省庁と連携し医療体制確保への取り組みを進めたい」とし、今のところは病院船建造ではなく、既存船舶の活用で検討を進める旨を示した。

医療以外にも船舶活用を

19日に東京都新宿区のヒルトン東京で行われたマーシー東京寄港記念シンポジウムでは、杏林大学教授で東京DMAT(災害派遣医療チーム)運営協議会会長の山口芳裕氏が「高度な医療を被災地に横付けでき、船内で医療を完結できる」とマーシーを評価。厚生労働省DMAT事務局長で日本災害医療学会理事の小井土雄一氏は、政府が検討する民間船や自衛隊艦船の活用について「民間船はヘリコプターの離着陸は困難で、設備面や指揮系統の面に課題がある。自衛隊艦船は災害への即応性も高く一定の設備も整っているが、訓練は必要だろう」と語った。公益社団法人モバイル・ホスピタル・インターナショナル理事長の砂田向壱氏は、民間資金を活用したPFI方式による病院船整備を提案した。

マーシーほどの大型で最新設備を備えたものが理想だが、陸上の被災の影響を受けないという観点からも、病院船の整備は検討に値する。発災時に必要な人員輸送においても道路や鉄道の被害の影響を受けない。また2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震では船舶を利用し、被災者に食事や入浴のサービスも提供している。医療以外にも利用価値が高い船舶を防災計画やBCP(事業継続計画)に取り込むのは一考に値するだろう。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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