明確にしておくべき「Must Not」(その1) 地下鉄サリン事件から学ぶ

地下鉄サリン事件の現場の一つとなった日比谷線(出典:写真AC)

前回の連載では、私たちひとりひとりがセキュリティ意識を高める必要があることと、セキュリティ対策を担うひとりとしてやるべき「Should」についてお伝えしました。今月からは二回にわけて、セキュリティ対策として自身の身を守るためにすべき「Should」ではなく、やってはいけない「Must Not」についてお話します。

「きっと大丈夫」が一番危険

セキュリティ意識を高め、多方面から多角的に情報を収集し、事態発生時には冷静な判断力を持って行動する、これは自分自身を守るために必要な能力です。日々の生活でセキュリティのアンテナを張っていると、日常と異なる状況の発生に敏感になり、素早い反応ができるようになってきます。一朝一夕で得られるものではないので、経験を蓄積し、「おや、おかしいな」と感じる直感力を高めていくことが重要です。

しかし、「きっと大丈夫だろう」と何となく思い、危険な方向へ進んでしまったり、正義感ゆえに自ら緊急事態の中に飛び込んでしまったりすることがあります。警察官や警備員のような訓練を受けず、何の武器も持たない一般人がそうした行動をとることは大きな危険を伴うことになります。もちろん、とっさの行動が命を救うこともありますが、うまくいかなかった場合は多大な犠牲を払うこともあるということを常に留意しておかなければなりません。

自身の安全確保を第一に

1995年3月20日、営団地下鉄(現・東京メトロ)丸ノ内線、日比谷線、千代田線の車内でオウム真理教徒によりサリンが散布され、12名が死亡、6000人以上が負傷しました。月曜日のラッシュアワータイムで大混雑している電車内において一般人をターゲットに毒ガスを撒くという世界でも類を見ない非道なテロは、日本だけではなく世界中の人々を恐怖に陥れました。

ばたばたと倒れていく乗客を救けようと、駅員や乗り合わせた人々が駆け寄り、救急隊員が到着するまで救護活動を行っていました。しかし、その後、救護活動をしていた人々も倒れていきます。通報がありすぐに駆けつけ、地下鉄駅構内へ入った警察官や消防士、現場での応急救護活動や負傷者の搬送にあたった救急隊員なども、体調に異変を訴え始めます。

写真1を見てください。

写真1(出典:https://newsgiappone.files.wordpress.com/2014/03/tokyo-ricorda-lattentato-al-gas-sarin-del-20-marzo-1995.jpg)

最初に現場に到着した警察・消防・救急隊員といったファーストレスポンダーたちはいつもと同じユニホームで活動をしています。まさか地下鉄でサリンが撒かれているとは思わず、全くの無防備の状態です。

次に写真2を見てください。

写真2(出典:http://saspdhealth.wikispaces.com/Future+of+Anthrax)

サリンが散布されたと明確になった後、除染するために電車内へ入った自衛隊員です。彼らは防護服を着ています。サリンは口や鼻からだけではなく、皮膚からもどんどん吸収されます。そのため、顔を覆うガスマスクだけではなく、全身を防護する防護服を着て対処することが鉄則です。撒かれた物体が「サリン」だとはっきりわかったとき、通常のユニホームで現場活動を行っていたファーストレスポンダーたち、および駅員や乗客の間では、二次被害、三次被害が出ており、すでに被害は拡大していました。

このような状況下において、防護服などの装備を持たない一般人はどのように行動すればよかったのでしょうか?また不審者・不審物を発見してしまったら、私たちはどのような行動に出ればよいのでしょうか?
 
サリン事件のような過去の脅威から学び導き出されてきた自身の身を守るための「Must Not」、来月はその三原則についてお話したいと思います。

(了)

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