金属行人(6月21日付)

 材料研究者の間では「バナナカーブ」と呼ばれている。材料の強度と伸びの関係性を示す有名なグラフの曲線のことだ。横軸に強度をとると、低強度材は伸びが高いので左上に、高強度材は伸びが低いため右下に。各点を結んでいくと緩やかに下降しながら弧を描く▼というのが一般的だが、これを打ち破る自動車鋼板がまた一つ誕生した。新日鉄住金が18日発表した強度980メガパスカル級の高成形性ハイテン(高張力鋼板)。従来の同強度材と比べて伸びを1・5倍に高めたのだ。くだんのカーブには中腹の辺りに山ができる▼可能になるのは車体のさらなる軽量化だ。高強度材は薄くても衝突安全性を維持しやすい。薄いと軽いため、車体重量を抑えられる。だが、従来は伸びが足りず、複雑形状の部品には使えない課題があった。ならば強度と伸びをより高次元に両立しよう―。高みに挑む新日鉄住金がまた一つ鉄の限界を押し上げた成果だろう▼車体の軽量化ニーズは依然として強い。今をときめくEVも航続距離や走行安定性の観点でまだ軽量化が必要だ。次世代のニーズに応えながら進化を遂げ続ける自動車鋼板。山ほどかどうかは知らないが、その先にちゃんと果実があるといい。

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