「アレはうまい」元阪神・岡田彰布氏が語るフルスイング論と山田哲人の凄さ

阪神・オリックスで活躍した岡田彰布氏【写真:荒川祐史】

タイミングの合ったフルスイングと体力によるフルスイング、その違いとは…

 16年に及ぶ現役生活で通算247本塁打を放った元阪神・岡田彰布氏。日本一に輝いた1985年には、バース、掛布に続くバックスクリーン3連発を決めるなど、記憶にも記録にも残る打者として猛虎打線を支えた。通算5496打数で打率.277、出塁率.351。11シーズンで100試合以上に出場したが、1シーズンの三振数が90を超えたことはない。

 巧打で知られた岡田氏は「技術的にはええ選手も若いヤツにおるよ」と現役打者について語ると同時に、アスリート化する選手の体力に驚かされているという。

「あのボールを打つか? コイツすごいなっていう選手はおるけど、ウエートトレーニングでつけた体力が技術を上回っているという感じ。そんなに打つ技術がいいとは思わないけど、技術をカバーするだけの体力を身につけている。今は技術だけで打つ若い選手が少ななったな。うまいなぁっていう選手が。

 技術と体力を両方プラスできたら一番ええんやけど。体力でカバーできちゃっているから、技術は上がらない。ウエートとかジムで器具を使ったトレーニングなんて、俺らの頃はなかったよ。もっと原始的なウサギ跳びとか、そういうことやったもんな(笑)。監督をしている時でも、選手はグラウンドでランニングをしたりする時間より、ウエート場に入っている時間が長かった。はよ出てこいって(笑)」

 技術を体力でカバーするとは、どういうことなのか――。それは2種類のフルスイングに答えがあるようだ。岡田氏曰く、打者のフルスイングには体力によるものと、技術によるものの違いがある。

「タイミングが合うと振り過ぎじゃなくて自然に無理なく振れるんよ」

「フルスイングっていうのは、ものすごくいいことよ。ただそれがオーバースイングか、本当に振り切っているのか。そこの言葉のニュアンスが難しいな。よく解説者が『ちょっと大振りになってますね』って言いよるけど、タイミングが合えば自然とバットは振れる。俺らもよう振り過ぎやって言われたけど、タイミングが合うと振り過ぎじゃなくて自然に無理なく振れるんよ。これがピッチャーにタイミングを外されると、変なスイングになって振れなくなる。

 でも、今は身体能力や体力があるから、タイミングが合わなくてもバットを振れる。ボールとバットが全然離れているのにフルスイングできるもんな。普通は振れないよ、はっきり言うて(笑)。タイミングがずれてのフルスイングは、俺はあかんと思う。こんなにボールから離れて、あんな変な空振りしてるのに、なんで次の球が合うんやろって思うことがある(笑)。それが今の野球やね」

 そんな中でも「アレはしかし、タイミングの取り方がうまい」と感心せざるを得ない選手がいる。それが2015年と2016年にプロ野球史上初の2季連続トリプル3を達成したヤクルトの山田哲人だ。

史上初2年連続トリプル3の山田を絶賛「いい技術を持ってるよ」

「うまいことタイミングが取れてるのは、ヤクルトの山田やな。ピッチャーに崩されることなく、自分のバックスイングを保ってフルスイングをしてる。いい技術を持ってるよ。山田はホームランバッターじゃないから、二塁打や三塁打が出るフルスイング。でも、矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、山田はホームランを打つことによって打率が上がるタイプやろな。

 反対に、筒香(嘉智・DeNA)なんか打率が上がればホームランが増えるタイプ。筒香は完璧な長距離砲やから軽打でいい。フルスイングする必要はないんよ。柵越えすれば、162メートル飛ばしても120メートル飛ばしても一緒やん(笑)。反対方向へ強いヒットが打てるようになって打率が上がれば、いつでもフルスイングできるから自然とホームランが増えるんよ。T-岡田(オリックス)もちょっと似たタイプ。ホームランじゃなくても、他人は持ってない遠くに飛ばせる能力があるわけやから。筒香も最初は引っ張ることばっかり狙っていたと思うよ。反対方向へのヒットを目指して率を上げていくのは、遠くに飛ばせる打者のやり方やな」

 フルスイングの違い、そして打者にとってのフルスイングが持つ意味の差に注目してみると、また野球観戦が味わい深いものになるかもしれない。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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