[ロシアW杯#20]超守備的布陣で“ティキタカ封じ”敢行も…… 1点に泣いたイラン

籠城作戦に出たイラン。ゴール前に文字通り赤い壁を築き上げた photo/Getty Images
54分、ついにコスタがイランゴールをこじ開ける。しかしスペインらしい綺麗な形ではなかった photo/Getty Images

自慢の堅守で籠城作戦に出たイラン

スペイン対イラン前―――。プレスルームでイラン、スペイン両国のメディアから「昨日のコロンビア戦は素晴らしい勝利だった」と称賛された。特にイランのメディアにとっては強豪のコロンビアに日本が勝ったことは大きな刺激になっているようで、「日本につづきたいね」と語っていた。彼らの声を聞いていると改めてインパクトの大きな勝利だったということを感じた。

イランは今大会、初戦のモロッコに終了間際のゴールで勝利を挙げ、勢いに乗っている。アジア予選10試合で2失点という堅守が持ち味で、それがスペインにどのくらい通用するのか、それが勝負を決めるポイントだった。

一方、スペインは初戦のポルトガルに3-3のドロー。激しい打ち合いの末、勝ちきることができなかった。3失点を受けて、「チーム全体の守備を高めてきた」とフェルナンド・イエロ監督は語っていたが、どう修正されたのかは気になるところ。ポルトガル戦よりも押し込まれることは少ないだろうが、上位進出を果たすにはやはり守備だ。それを踏まえた上で決勝トーナメント進出を確実にするには、イラン戦での勝利が必須だった。

前半、イランは「籠城作戦」に出た。6バックにもなる超守備的な布陣を敷き、スペースも時間も与えない鉄壁の守備でスペインの攻撃に対応した。ペナルティボックスはイランの赤い選手だらけになり、スペインがいくらクロスを入れたり、地上戦で打開しようとしてもイランの堅固な守備を打ち崩すことができない。イランは愚直に守りつづけ、スペインのボール保持率は73%にもなった。ほとんどイランはボールに触れない状態だったが、前半を0-0で折り返した。

イランにとっては狙い通り展開だった。後半も粘って失点を防ぎ、スコアレスドローでOKという考えだった。スペインから勝ち点1を獲得できれば、決勝トーナメントへの道が開ける。

同点弾かと思われるもVARでゴール取消しに

だが、負けられないスペインは後半序盤からエンジン全開で1点を取りにきた。54分、ジエゴ・コスタがゴールを決め、スペインが先制した。

「もう少し我慢できていれば相手に焦りが出ていただろう......」

試合後、カルロス・ケイロス監督がそう言ったが、後半での早い時間でも失点は予定外だった。イランのゲームプランが崩れ、ここから前に出ていかざるを得なくなった。スペインは、前に出て来た相手のスペースを利用し、さらに追加点を重ねていけばいい。

63分、FKからのこぼれ球をエザトラヒが決めて一瞬、同点ゴールかと思われたが、VARによってオフサイドと判定され、ゴールが取消しになった。イランは、ツキにも見離されてしまった。その後は、ほぼスペインのペースだった。ムリをせず、相手をいなし、時間をうまく使い、勝ち点3を難なく得た。

最終的にスペインのボール支配率は70%。これは、プレイしているイランの選手からすれば、ほとんどボールに触れていないという感じになる。スコアは1-0だが、その差は絶望的なものだった。

[スコア]
イラン代表 0-1 スペイン代表

[得点者]
スペイン代表:コスタ(54)

文/佐藤 俊
スポーツライター。出版社勤務を経て、’93年にフリーランスに。サッカーのみならず、野球やゴルフ、陸上に水泳と守備範囲は広い。サッカー関連の著書に「中村俊輔リ・スタート」(文藝春秋)、「宮本恒靖 主将戦記」(小学館)、「サッカーライターになりたい」(ぴあ)など。

theWORLD205号 2018年6月21日配信の記事より転載

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