「21世紀型スキル」を身につけよう 若手起業家フィリッポ・ヤコブ氏に聞く 【→U30】

インタビューに答えるフィリッポ・ヤコブさん=2018年5月

 2020年度から小学校でプログラミング教育が必修となる。少しでも早く備えたいという親子に、プログラミングの基礎を学べるおもちゃが人気となっている。国内メーカーからも新製品の投入が相次ぐ。中でも3~6歳というとりわけ小さな子を対象にした英プリモトイズ社の「キュベット」は、代表的な製品として知られる。

プログラミングを学べる知育玩具「キュベット」

 プログラミングとは、コンピューターに仕事をさせるために、適切な指示を与えること。キュベットの場合、「まっすぐ進む」「右へ回る」などの動作を示すブロックを木製ボードにはめこんでスイッチを押すと、その指示通りにかわいい箱形ロボットが動く。パソコンなどのデジタル画面を使わずにプログラミングの考え方を学べるのが特長だ。

 開発したのは欧州で活躍する若手起業家の一人で同社最高経営責任者(CEO)のフィリッポ・ヤコブさん(31)。このほど来日したヤコブさんに開発の背景のほか、新しく始めたという仮想通貨を使って子どもが「お金」の知識を学べる金融教育のプロジェクトについても聞いた。

自分の息子に

 ―なぜプログラミングを学べる玩具を作ろうと思ったのですか。
 「会社をつくったのは2013年です。テクノロジーのベンチャーをつくり続けていましたが、その頃、子どもが生まれました。親として自分の息子が将来の世界で役立つ『21世紀型スキル』を身につけることが重要だと思いました。そこで、その一つであるプログラミングをテーマにした玩具をつくりました」

 ―21世紀型のスキルとは何ですか。
 「われわれは20年後を見ています。今の子が社会に出るときにどんな産業が経済を動かすのか。サイバーセキュリティー、ロボット、ビッグデータ、ゲノム、仮想通貨に注目しています。これらの分野に必要な技能を21世紀型スキルと呼んでいます。具体的にはプログラミング、データの収集・分析、異文化コミュニケーション、人工知能(AI)による自動化、の四つです。早い時期から読み書き計算などとともに教えたいと思います」

早すぎることはない

 ―そもそも3~6歳の子にプログラミングを教える必要がありますか。
 「プログラミングというのは問題解決のための論理的な考え方で、われわれが毎日、自然にやっていることです。例えば『靴を履く前に靴下を履く』といったことで、そういう考え方を早く教えるのはポジティブなことと思います。もはやその重要性を否定する時期は終わっていて、そんなことを考えていたら取り残されてしまいます。ものごとがプログラミング可能という考え方を持つのが重要で、今の世界を考えたときに早すぎることはありません」

ロンドンの博物館でのキュベット体験会で遊ぶ子どもたち(日本販売総合代理店 のキャンドルウイック社提供)

親にも簡単

 ―キュベットは世界各地の幼稚園などで使われているそうですね。
 「100カ国以上で販売していて、2万以上の教育関係者と保護者に使われています。楽しい製品なので子どもに愛されています。また非常に簡単なのでITの知識のない親にも理解でき、親子で楽しめます」

 ―日本での展開はどうなっていますか。
 「インターネット販売のほか、伊勢丹や高島屋といった百貨店でも扱われています。東京、大阪、名古屋、京都などの16店舗で販売していて、年内にはさらに増やしたいと思います。幼稚園や小学校への導入も進めています」

 ―英国の小学校では2014年にプログラミング教育が必修化されましたが、いい影響がありましたか。
 「非常にいい影響がありました。先天的に知っていたのではないかと思うほど自然に身につきます。キュベットで遊んだ子は、本格的なプログラミング言語を学ぶ際も、原則を分かっているので、早く習得できます。10~12歳で大学レベルのプログラミングができる子もいます」

仮想通貨を使ってお金の知識を学べる「ピグズビー」

仮想通貨

 ―新しく仮想通貨のプロジェクト「ピグズビー」を始めますね。
 「子ども向けの金融教育の事業です。新たに『Wollo(ウォロ)』という名前の仮想通貨を発行します。物理的な貯金箱に代わる電子財布をつくり、そこにウォロをためられるようにします。家族間でウォロの小口送金ができるようにし、大人は子どもにおこづかいをあげられます。子ども用の財布はピンク色の端末になっていて、遊びながらお金の知識を学べるゲームもできます。世界の家族を対象にしますが、日本で最初に展開できればと思っています。当局の許可を得て来年4~6月期に始めるのが目標です」

 ―今の子どもが大人になるころには、人工知能(AI)の発達で多くの仕事がなくなっていると言われます。プログラミングを学んでおけば大丈夫ですか。
 「ロボットやビッグデータなどの新産業で、新たな仕事が生まれます。将来の仕事の65%がまだ存在しないと言われます。これらの仕事に就くためにはまったく新しいスキルが要ります。プログラミングはその一つですが、データ解析なども含めて複合的に身につける必要があります」

インタビューに答えるフィリッポ・ヤコブさん=2018年5月

 ―日本は社会全体のIT対応が遅れているのではありませんか。
 「日本はこれから加速し、急速に追いつく必要があります。ただ、仮想通貨ではリーダーになるチャンスがあります。否定ではなく受容するという意味で、規制をしようとしていることは素晴らしいです。不正取引の心配をなくし、まともな会社、起業家が参入できるようにすることが大切です。日本でピグズビーを展開したいと思うのは、そうした規制やルールがあるからです。認定を受けたまっとうな仮想通貨にしていきたい。そういう意味で日本はこの事業の鍵を握る国だと思います」(聞き手・共同通信サイバー報道チーム=北本一郎)

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