10年目のAKB選抜総選挙が映すもの キーワードは「世界」「地方」?

多くのAKBファンが詰めかけた名古屋市のナゴヤドーム

 10年目の節目となったAKB48の「選抜総選挙」。この数年、開票イベントを取材後に記者コラムを書くことが続いているが、本当は結構キツイ。スポーツ紙の専門記者さんならいざしらず、年に数度取材するだけの僕では、ファンの方が持っている情報量にとても太刀打ちできない。今更何を書いても後出しじゃんけん大会・・・。

 もう開き直って一般の方向けに当たり前のことを書けば、開催地の地元、名古屋市に本拠地を置くSKE48の松井珠理奈さんが念願の1位を獲得したことは大方の予想どおり。驚いたのは2位に同じSKEの須田亜香里さんが入ったことだった。3位でHKT48の宮脇咲良さんの名前が呼ばれた際、ナゴヤドーム後方の報道席でも「えっ?」と驚きの声をもらす記者が少なからずいた。

 大歓声が上がる中、須田さんは歓喜の表情を浮かべてマイクを握ったが、その内容は少し衝撃的だった。

 前回総選挙で6位となりメディア出演が増えて「本当にラッキーでした」と喜びながらも、その出演を通じて「私たちが思っている以上に世間の皆さんは48グループに興味がない。こんなにも熱く応援してくれる人がいるのに、なんでこんなにも(世間に)伝わらないんだろう」とAKBグループを巡る現状にもどかしさを口にした。

 今年は壇上でAKBグループに対する危機感と変化の必要性を訴えるメンバーはほかにもいた。そんな流れとは別に、NGT48の中井りかさんの「私やっちまいました。文春砲なんですけど」発言が飛び出し、メンバーや客席、そして司会の徳光和夫さんに動揺が広がる場面もあった。

 今回の選抜総選挙の投票数は383万票と過去最多だったとはいえ、メンバーが肌で感じているように、世の中的にはもう「社会現象」ではなくなってきているのかもしれない。だが一方で、この選抜総選挙が地方からは熱視線を浴びていることも確かだ。

 開票イベントは2015年の福岡を皮切りに新潟、沖縄と首都圏以外で行われてきたが、運営側は今回からイベント会場の公募を開始し、国内外から105件も応募があったという。なんだか公共工事の入札のようだが、開票イベントの地方開催がファン全体の底上げにつながることは間違いないだろう。

 また今回は世界選抜と銘打って海外姉妹グループも参加し、タイ・バンコクが拠点のBNK48から2人が100以内にランクインする快挙も。タイに詳しい専門家や貿易関係者らに話を聞くと、本国の人気は本物で、日本のAKB勃興期に匹敵する勢いがあるとのこと。そうした勢いのある姉妹グループが海外にあるということは、AKBグループにとって大きなアドバンテージといえるだろう。

 これまでメンバーのスキャンダルさえも(結果的に)AKBの大きな「物語」の中に取り込んできたAKBグループ。「メンバーの危機感」「地方」「世界」などが今後の予期せぬ化学変化を起こすことにおおいに注目したい。

 余談ですが個人的には・・・NGTのバラエティー担当、山田野絵さんの初ランクイン(91位)にほっとした。NGTデビューシングル「青春時計」リリース時の取材の際、独特のハスキーボイスで「昔はモテていた」ネタを披露して場を和ませてくれた山田さん。それまでドラマ「豆腐プロレス」の奇天烈なボイス山田役の印象しかなかったが、実際にお会いすると想像以上にチャーミングでした。今回のスピーチでも号泣しながら「今日のためにダイエット頑張りました。年末から8キロ太って4キロ減らしました!!」とらしさを発揮して絶好調でしたが、僕の近くにいた女性記者は涙ぐみながら「野絵ちゃん、良かったねえ」としみじみ。ついつられて僕も目頭が熱くなりました。(共同通信文化部・関口康雄)

© 一般社団法人共同通信社