【卓球・英田理志第4回】衝撃を受けたレジェンドの言葉「卓球は、たかがスポーツ」

変えたかった“何か”。リーグを通して得たものとは

渡欧前に感じた“変えなければいけないもの”はまだ完全には見つかっていない写真:伊藤圭

スウェーデンリーグで個人成績2位という挙げ、スパルバーゲンから1年間契約を獲得した英田理志。終わってみれば大きな成果を獲得したが、欧州に行く前は、「何かを変えないといけない」という悲壮な思いでの挑戦だった。

英田理志の第1回目インタビューはこちらから

その“何か”は、見つけられたのだろうか。

「うーん、それはまだ難しいですね。何かを変えないといけないものを完全に見つけられたわけではないです……。欧州に行く前は自分が受け身になった時や打ち込まれた時、もっと打たれ強くならないと思っていました。打たれ強くなるためには、技術的にも精神面も強くないといけない。技術面はともかく、精神面はスウェーデンにいて、いろんな選手と試合をして、コーチと関係性を築いて練習をしたり、いろんな経験をすることで多少成長できたかなと思います」

英田は、カットマンである。相手に打ち込まれた時、カットで粘るのか。それともバック、フォアで返していくのか。欧州に行く前はどちらを自分の持ち味として戦うのか。迷いもあった。

「僕はどっちも出来ないといけないと思っています。最終手段は粘るしかないんですけど、そのためには守備範囲を広くしないとダメなので、それは今、取り組んでいます」

卓球に限らず、自分のスタイルを確立しようとする場合、AかBかどちらかに偏り過ぎる傾向にある。本当はどちらも必要なのだが、英田がどちらも大事だという感覚を得たのは、勝つために手段を選ばない欧州の選手の戦いぶりを見てきたからに他ならない。どちらかひとつでは、勝ち続けることは難しいのだ。

「海外にいると日本での常識が通用しないというか、自分がいいと思ったことがそうでもなかったり、逆にこれは違うよって思っていたことが良かったりすることもある。海外にはいろんな考え方があるんだなって思ったし、それを理解できたのは大きいですね」

こうした小さな発見を積み上げていくことが選手としての引き出しを少しずつ増やしていくのだ。

「本当は、半年終わった後、自分としてはもっと強くなっている予定だったんですが、目標にしていたほど強くはなっていないですね」

少し申し訳なさそうにそう言うものの、結果を見れば英田の半年は充実したものだった。試合や日々の練習、チームメイト、コーチ、スウェーデンの人々から様々なことを柔軟に学んでいった。スウェーデンへ渡ったばかりの頃、英田の価値観をガラリと変えた言葉がある。

“卓球は、たかがスポーツだから”

自分には卓球しかない。そのプレッシャーから英田を救ったのは100年に一度の天才、ワルドナーの言葉だった。写真:伊藤圭

スウェーデン卓球界のスターであるワルドナーから発せられた言葉だ。

「衝撃的でした。メダリストでメジャーな選手がそう言うことを言うのってすごいですよね。日本だと卓球選手は卓球が人生で、卓球がすべてじゃないですか。僕もそう思っていたし、スウェーデンに行った時は結果を出さないといけないというプレッシャーをすごく感じていたんです。でも、ワルドナーの言葉やコーチから『結果を出すだけじゃなく、それ以上に大切なものがある』と言われて気持ちに余裕ができたんです。もちろん卓球がうまくなりたいし、強くなりたいですけど、同時に人間的にもっと大きく成長したい。卓球選手としてよりもひとりの人間として大きな人間になれればと思うようになりました」

海外でプレーした選手は、技術面よりも精神的な部分で成長を見せる場合が多い。異国でプレーの内外で苦しんだ分、人間の器が大きくなる。単眼的だった視野が複眼的に進化し、姿勢も柔軟に変化する。その結果、技術面での大きな飛躍を見せることがあるのだ。プロ野球で選手、監督として一時代を築いた野村克也氏もこう言っている。

「人間的成長なくして競技力の成長なし」と。

エリートに負けたくない。どんな選手でも可能性はあると示したい

2回目のスウェーデンではもっと色々なことを経験したいですね」と英田は貪欲な眼差しで語っていた。写真:伊藤圭

欧州で成長し続ける英田の本当の力は、来年の全日本選手権で試されることになるだろう。その大会を制することは、英田の目標でもある。

「全日本選手権で優勝するのは小さい頃からの夢ですし、そこで勝って世界で日の丸をつけて戦えるような選手になりたい。そうなるためには、まだ力が足りない。もともと自分は華々しい経歴もないし、無名の選手。公立中学公立高校出身で弱かった。大学と日本リーグの時は、エリートアカデミーの選手だけには負けたくない、意地でも勝ってやると思ってプレーしていた。そんな自分がカットマンとして活躍し、全日本選手権で優勝できるんだっていうのを若い選手に見せて、どんな選手でもやれるんだよっていう可能性を示したい。そうしてさらに自分の個性を磨き、質を上げて、見ている人を楽しませることできる選手になりたいですね」

そのために、英田はもう少し世界にもまれることが必要だと感じている。

世界のトップを含め、海外の選手たちはスタイルを押し通すだけではなく、あの手この手で相手を打ち負かそうと手を尽くしてくる。“いい試合”をするのではなく、“勝つために”手段を選ばず仕掛けてくる。英田が想定していなかった戦いを強いられることもあるが、そこで経験と積み、対応力がついてくれば、自身の目標達成の尻尾が見えてくるだろう。

「次は2回目のスウェーデン、もっといろんなことを経験してさらに成長したいですね」

その貪欲さは、プロ選手にとって不可欠なものだ。

9月、2度目のスウェーデンリーグへの挑戦が始まる。

取材・文:佐藤俊(スポーツライター)
写真:伊藤圭

英田理志のインタビューはこちらから

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