「金正恩は最初に何人か殺す」独特の処刑ノウハウはどこから

北朝鮮の金正恩党委員長が19、20日に中国を訪問。習近平国家主席と2回にわたり会談したほか、中国農業科学院の国家農業科学技術革新院と、北京市軌道交通指揮センターを見て回った。その様子を伝えた朝鮮中央通信の写真を見ると、金正恩氏はだいぶリラックスしているように見える。米朝首脳会談という「大仕事」をやり遂げたことからくる余裕だろう。

衛星写真がとらえた

情勢が険悪なときには、金正恩氏の現地指導にも殺伐とした空気がただよっていた。象徴的なのが、有名なスッポン養殖工場事件だ。管理不備に激怒した金正恩氏は、支配人を銃殺させ、怒りを爆発させた自身の表情も含め動画をテレビで放映したのだ。

こうした無慈悲な粛清や処刑は父である金正日総書記の時代にも行われていたが、金正恩氏のやり方には独特なものがある。韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏は近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で、次のように証言している。

「金正恩は大規模な建設事業や国家的な記念事業を行う際に、必ず1人か2人を処刑する。それも事業の開始段階で殺すものだから、皆、縮み上がってしまう」

太永浩氏によれば、金正恩氏がこのようなやり方を始めたのは2012年末、錦繍山太陽宮殿を大規模改修したときからだったという。宮殿前の広場に花壇を造成するため、各機関に作業区画が割り当てられた。担当区画の土を3メートルの深さで掘り起こし、害虫駆除を行って埋め戻したのだが、国家産業美術指導部は工期を守るのが難しくなるや、1.5メートルだけ掘り起こして埋め戻した。これがバレて、局長1人が金正恩の命令により銃殺されたという。

たかが害虫駆除のために、文字通り「虫けら同然」に人ひとりが殺されたのだ。2012年末と言えば、金正恩氏が父親から権力を継承して1年しか経っていない。どのような場合に、どのように処刑を行うべきか、果たして金正恩氏は誰から学んだのか。

金正恩氏による処刑にはもうひとつ、大口径の高射銃を使い、人間をミンチにして殺すという特徴もある。その場面が、衛星写真で確認された例もある。

高射銃を使ったのは、金正恩氏が初めてだ。従来の銃殺はカラシニコフAK47自動小銃で行われていたのだが、それでも人体はズタズタになる。高射銃を使うという「独創性」は、金正恩氏の残忍な人間性の本質を物語って余りある。

南北首脳会談と米朝首脳会談に続き、日本の安倍晋三首相も金正恩氏との首脳会談を目指すことを表明している。実現に近づけば、日本の政治家や官僚が金正恩氏と会う機会も出てくることだろう。その際には十分に気をつけるべきだ。金正恩氏が本物の「殺し屋」であることを、決して忘れてはならない。

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