野球普及への新たなアプローチ 高校球児が保育園児に野球を指導

静岡県立三島南高校の野球部員が「梅の実保育園」で野球教室を開催【写真:広尾晃】

初めて見る硬球に、目の色が変わる保育園児

 6月5日、梅雨入り直前の青空のもと、静岡県三島市の「梅の実保育園」で、静岡県立三島南高校の野球部員によって「野球教室」が開催された。

 三島南高校がこの取り組みを始めたのは4年前。稲木惠介監督が野球普及のために、市内の保育園に呼び掛けて野球教室を始めたものだ。

 園児と対面した37人の選手、マネージャーは、大きな声で「こんにちは!」とあいさつ。
普段の練習と同じように「いちにさんし」と掛け声をかけて準備体操、ランニング、キャッチボール、ノック(守備練習)、投球を披露する。
 初めてみる本格的な野球の動きに、子どもたちの目の色が変わる。
 また、この間に硬球が手渡される。始めて見る硬球に恐る恐るさわってみる園児たち。その手触り、硬さを実感して「すごーい!」「重たーい!」などの声が上がる。

「さあ、君たちもやってみよう」

 稲木監督のかけ声で、子どもたちの体験教室が始まる。

 まずは「的あて」。テニスボールを絵が描かれた木製の枠に入れていく。
 園児の多くはボールを投げた経験がない。選手たちは、ボールの握り方、投げ方を一人一人に教えていく。子どもの目線に合わせるために跪いて丁寧に話す。
 地面にボールを叩きつけてしまう子、的のはるか上に投げてしまう子など様々だが、最初からストライクを投げる子もいる。また、何球か投げるうちにコースが定まってくる子も。その都度選手から「ナイスピッチ」と掛け声がかかる。園庭は、子どもと高校生の大きな声に包まれた。

 次は、バッティング。ひもがついたボールをプラスチックのバットで打つ。選手が最初にやって見せる。この頃になると、園児も打ち解け、てすぐに自分もやって見せようとする。選手たちは、バットを持った園児に他の園児が近づかないように手で制止するなど事故防止にも気を配っている。
 投球と同様、バッティングもほとんどの子が初体験。空振りをする子が多いが、中にはいきなりジャストミートでボールを遠くまで飛ばす子もいる。

 さらに選手と子供たちの選抜チームによる簡単なボールゲーム体験。そして最後は鬼ごっこと、約2時間、選手も子供たちもたっぷりと汗を流してプログラムが終了した。
この間、熱中症対策として、適宜給水タイムが取られた。

静岡県立三島南高校の野球部員が「梅の実保育園」で野球教室を開催【写真:広尾晃】

球界にも保育の現場にも、そして選手たちにも大きな収穫

 視察したNPB(日本野球機構)の平田稔野球振興室長は

「私たちプロ野球だけでなく、プロとアマのメンバーからなる日本野球協議会でも、未就学児への野球普及のアプローチは最優先課題の一つになっています。近ごろ、高野連(日本高等学校野球連盟)さんが『高校野球200年構想』を発表されましたが、私たちも野球普及の考えは共有しています。プロ野球の各球団もアカデミーでこういう取り組みをしていますが、どういうやり方がいいのか、日本野球協議会などを通じて情報共有していきたいですね」

 と話し、プロとアマが連携して普及に取り組んでいく方針を強調。指導を受けた側の梅の実保育園・佐藤悟郎副園長は

「保育園は女性の先生が多いので、野球に触れる機会はほとんどありません。お兄さんたちと遊ぶうちに、子どもたちの表情が生き生きとしてきました。子どもはどんなきっかけで目覚めの機会が訪れるか、わかりません。これからも野球だけでなく、いろいろなスポーツに触れる機会を与えたいですね」
と、保育現場にとっても、収穫は大きかったことを強調した。

三島南高校の稲木監督は

「高校野球は練習時間が長いし、休日は試合も組まれています。こういう機会は気分転換には有効です。それに、子どもたちを指導しているうちに選手の中にも、意外な表情を見せる子がいるんです。今は年2回、こういう機会を設けていますが、これからも続けていきたいですね」

と語った。野球経験者の中には、将来的に少年野球のコーチになったり、教員となって後進の指導にあたる人材も少なからずいるだけに、現役のうちに子供の指導を経験するのは、貴重な機会になるのではないだろうか。

 地道な活動が「野球離れ」を食い止め、すそ野を広げていく。今後も注目していきたい。

(Full-Count編集部)

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