ブロック塀、古い方が無法状態の現実。根本解決は?気になる防犯は? 大阪北部地震でも繰り返してしまった悲劇。もう先送りはやめよう!

(撮影:あんどうりす)

大阪北部地震ではブロック塀の倒壊によって、小学4年生の三宅璃奈さん(9)と、杖をつきながらも小学校の登校の見守りをしてくださっていた安井実さん(80)の大切な命が奪われてしまいました。

ブロック塀の倒壊は人災です。リスク対策の過去記事では、

■町中で、防災を意識しない人には見えない、意識した人にだけ見えるミステリーゾーン?ブロック塀は、机の上に置いた板チョコのように板状で倒れてくる
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1874

■花粉症と防災・減災の一挙解決!危険なブロック塀を杉の塀に変えよう!危険なブロック塀を減らす解決策3つ
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5240

と、震度5や震度6弱で死者をだしてしまうブロック塀などの塀の危険性と、その対策についてずっと訴えきました。

それだけではなく、私は大阪北部地震の起きる3ヶ月前の今年3月に、ブロック塀の記事を書いた11日後に、高槻市で講演していていました。全く同じタイプの、高さが違法のブロック塀の資料を使って講演していたのに、学校の関係者まで伝える力がなくて璃奈ちゃんの命を守れなくて本当にごめんなさい。謝っても取り返しがつきません。

もう絶対にこんなことがあってほしくないです。子育て世代対象講座ではなかったらから学校まで届きにくかったのか、そんな時はどうすれば学校に届けることができたのか、もっと深くブロック塀について、ワークショップできればよかったとずっとやりきれない思いを抱えています。

その時講演したブロック塀の資料はこちらです。いつも使っている資料なので高槻市だけ特別に使ったわけではありません。ブロック塀の最初のスライドは三宅璃奈さんが亡くなったブロック塀と同じ、擁壁(ようへき)上にある高さのあるブロック塀です。

(資料作成:あんどうりす)

 
左横に、「すべてブロック塀」と矢印があるのは、下から高さを測ると2.2m(もしくは2m)以上ある高さのあることを現しています。擁壁上に建てられて建築基準法以上の高さになっている塀はどこにでもあります。そして、次のスライドはこれです。

(資料作成:あんどうりす)

ブロックは1つ10kgの重さがあります。数えると、この画像に写っている全体の重さは、1100kg、それが板チョコのようにそのままの形で倒れて来ますと説明しています。

比較しているのは、1歳児と小学1年生の重さです。小学1年生だとブロック2個の重さしかないのです。小学4年生の体重は平均でもブロック塀3つの30kgなんですよ。たった30kgの体でこれらの重さと落下の衝撃を受けなければならなかったのです。

2016年の熊本地震でもブロック塀の犠牲者が

私たちは、なぜ、この事故を避けることができなかったのでしょう。1978(昭和53)年の宮城沖地震からの教訓ということは今回、たくさん報道されました。もちろんそうです。でも、2016年の年熊本地震で29歳の坂本龍也さんの命を奪ったのが、まさしくこの擁壁の上にあるブロック塀だったのです。

擁壁の高さは2mで、その上にあったブロック塀が2.15mでした。それだけでなく、支えとなる控え壁がないことまで同じです。1978年のことを継承していなくても、2016年の教訓はたった2年前のことです。なぜ教訓が継承されないのでしょう?もっとわかりやすく伝えねばならなかったと本当に悲しく思っています。

今回の事故で、一刻も早く違法なブロック塀の撤去が進むことを願っています。ところが、実は、古いブロック塀ほど違法ではなくなってしまうという困った問題があります。

1978年の宮城沖地震でブロック塀の倒壊により18人が死亡。その教訓を受けて1981年に建築基準法が改正され、塀の高さの上限は3mから現在の2.2mに引き下げたほか、強度を補うために高さ1.2メートルを超える塀には、「控え壁(ひかえかべ)」と呼ばれる壁の設置条件を厳しくするなど、耐震を強化しました。

高槻市で倒れたブロック塀は、基礎部分は1973(昭和49)年に設置が確認されています。その上に積んだブロック塀について、市側は「時期は不明」としながらも、改正建築基準法以降に設置された可能性が高く、また「控え壁(ひかえかべ)」も設置されていなかったことから建築基準法違反を認めています。

しかし、この法律改正以前に作られたブロック塀は、設置当時は適法だったので、いわゆる「既存不適格(きそんふてきかく)」という状態となり、法的に規制できないのです。

既存不適格は、建築時には適法に建てられた建築物であって、その後、法令の改正や都市計画変更等によって現行法に対して不適格な部分が生じた建築物のことをいう。

建築基準法は原則として着工時の法律に適合することを要求しているため、着工後に法令の改正など、新たな規制ができた際に生じるものである。そのまま使用していてもただちに違法というわけではないが、増築や建替え等を行う際には、法令に適合するよう建築しなければならない(原則)。

当初から法令に違反して建築された違法建築や欠陥住宅とは区別する必要がある。(出典:Wikipedia)

塀の耐用年数はおよそ30年と言われていますが、もっと古いのではないかと思われる明らかに危ない既存不適格のブロック塀は、どんなに地震で倒れやすくても違法建築にはならないのです。これでいいのでしょうか?

今後、地震が頻発する可能性を考えると、設置当時は合法なので違法とならない塀も、立法による撤去を真剣に考えるべき時期に来ているのではないでしょうか?

擁壁の上にあり、2.2mを超え、透かしがあるので、鉄筋が少ないことが予想できる古そうなブロック塀(撮影:あんどうりす)

過去記事に詳しく書きましたが、既存不適格のブロック塀の見分け方は以下です。

透かしのあるブロック塀、石垣の上のブロック塀は、いずれも鉄筋の数が足りなかったり、入れられない構造で倒壊の可能性が高いです。すでに亀裂や傾きがあるブロック塀など、危険なブロック塀です。ブロック塀で土どめするのも危険です。

土留めに使われているブロック塀 (撮影:M.Tさん)

色が黒ずんでいて風化していれば、危険なブロック塀の可能性が高いので、誰でも見分けられます。違法建築ですと地震で倒壊した場合、損害賠償請求された時に敗訴する可能性が高いです。高槻市のブロック塀倒壊は違法であったため、業務上過失致死という刑法上の捜査も始まっています。

ブロック塀よりもキケン?。古い万年塀

熊本地震で倒壊したブロック塀は、違法なブロック塀なのか否かは報道からはわかりませんが、遺族の方が6789万円の損害賠償を求めています。理屈の上では古くて危ないブロック塀の方が、違法と言えず、危険の立証が難しくなるのだとしたら、なんだかとても不公平な気がします。

実際には、解釈で合理的な結論になるでしょうが、建築基準法改正前のものであっても、「危険なまま撤去しないことが違法であり罰金」という制度を作った方がこんな事故を二度と起こさない事に直結します。また、現状では同じ事故が地震で繰り返される可能性が非常に高いです。そうすると誰かが犠牲にならねばならず、そして裁判までしなければいけないのだとしたら、あまりにも過酷です。

ところで、古くていかにも倒れそうな塀にはブロック塀とは異なる万年塀というものがあります。

資料提供・あんどうりす

過去の地震なのか何なのか、すでに壊れていたり歪みがひどい塀です。関東地方に多いように思うのですが、みなさんの地域ではどうでしょう?昭和30年~40年ごろに流行ったようです。

実は、この古い万年塀、そもそも現在の建築基準法と比較することもできないかもしれない不思議な物体なのです。というのも、建築基準法は「コンクリートブロック塀」と「組積造」を対象に規制をしています。

高槻市で倒壊したコンクリートブロック塀については、以下のように書かれています。

第62条の8 塀

1. 補強コンクリートブロック造の塀は、次の各号(高さ1.2m以下の塀にあつては、第五号及び第七号を除く。)に定めるところによらなければならない。ただし、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。
1.    一 高さは、2.2m以下とすること。
2.    二 壁の厚さは、15cm(高さ2m以下の塀にあつては、10cm)以上とすること。
3.    三 壁頂及び基礎には横に、壁の端部及び隅角部には縦に、それぞれ径9mm以上の鉄筋を配置すること。
4.    四 壁内には、径9mm以上の鉄筋を縦横に80cm以下の間隔で配置すること。
5.    五 長さ3.4m以下ごとに、径9mm以上の鉄筋を配置した控壁で基礎の部分において壁面から高さの1/5以上突出したものを設けること。
6.    六 第三号及び第四号の規定により配置する鉄筋の末端は、かぎ状に折り曲げて、縦筋にあつては壁頂及び基礎の横筋に、横筋にあつてはこれらの縦筋に、それぞれかぎ掛けして定着すること。ただし、縦筋をその径の40倍以上基礎に定着させる場合にあつては、縦筋の末端は、基礎の横筋にかぎ掛けしないことができる。
7.    七 基礎の丈は、35cm以上とし、根入れの深さは30cm以上とすること。

高槻の小学校プール脇のブロック塀は2.2m以上あったことと、控え壁がなかった2点で違法と判断されました。

これに対し、組積造(そせきぞう)の塀は別の規定があります。

第61条 組積造のへい
1.     組積造のへいは、次の各号に定めるところによらなければならない。
1.    一 高さは、1.2m以下とすること。
2.    二 各部分の壁の厚さは、その部分から壁頂までの垂直距離の1/10以上とすること。
3.    三 長さ4m以下ごとに、壁面からその部分における壁の厚さの1.5倍以上突出した控壁(木造のものを除く。)を設けること。ただし、その部分における壁の厚さが前号の規定による壁の厚さの1.5倍以上ある場合においては、この限りでない。
4.    四 基礎の根入れの深さは、20cm以上とすること。

万年塀はコンクリートブロック塀ではありません。では、この組積造の塀にあたるのでしょうか?わからないので、国土交通省住宅局建築指導課にお聞きしました。

万年塀は「その他の組積造」?

すると、組積造の中に何が含まれるかいろいろ議論があることがわかりました。そして、いわゆる万年塀は建築基準法の「その他の組積造」に含まれる可能性があるとのことでした。

可能性があるということは、残念なことに、可能性がない場合も想定されています。万年塀というのは「組積造に当然含まれます」というすっきり明瞭な物体ではないのです。

では、万年塀が組積造に含まれるケースとはどんな場合なのでしょうか?同省によると、最終的な判断はすべて行政判断となり、すなわち地方公共団体の判断となるとのことです。もともと建築基準法自体、すべて地方公共団体が建築確認するものとなっているのです。

ということで、結果として万年塀を建築基準法の対象と見なすか否かも地方公共団体の判断となっており、一定の大きな建物の周辺にあるようなものは定期的に調査対象とすることが多いものの、住宅周辺の万年塀に関してはおそらくそのようなことはないだろうというのが国土交通省住宅局建築指導課の見解でした。

違法であれば、撤去も求めやすいし、損害賠償も請求しやすいですが、基準がそもそも不明瞭な物体だったなんて・・・。崩れそうな古い万年塀を見つけたとしても、「点検してください」とも言えないってことになりますよね。

地震から命を守る、人災による被害は避けることを重視すると、コンクリートブロック塀以外の崩れそうな塀たちについても法の規制を及ぼすべきように感じますが、どうなのでしょうか?

さらに、地震が頻発する昨今、もう一歩考えておかねばならないことがあります。適法であれば、倒壊しないの?という問題です。

業界団体は阪神淡路大震災と同等の揺れの実験を2016年に実施し、適切に施行された塀については倒壊しなかったという実証実験を行っています。きちんと実証実験してくれると心強いですね!

■地震の時、ブロック塀は? (社団法人全国建築コンクリートブロック工業会)
http://www.jcba-jp.com/daijiten/c04/index.html

ところで気象庁の震度階級関連解説表には

■気象庁震度階級関連解説表 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/kaisetsu.html

震度5強 補強されていないブロック塀が崩れることがある6強 補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる7  補強されているブロック塀も破損するものがある

との記載になっていて、補強されているブロック塀も破損するものがあるとしています。倒壊ではなく、破損という記載です。

気象庁の根拠については記載がないのでわかりませんが、施工不良、地盤が想定外、また、震度7といっても阪神・淡路大震災のような活断層の揺れもあれば、南海トラフや東日本大震災のように長周期地震動の揺れは異なるからかもしれません。

また、これはブロック塀とその他の塀だけの問題ではないのですが、熊本地震の知見では、建築基準法の最も新しい基準である2000年基準を満たした建物でも、大きな被害があったことが問題になりました。1度目の地震でダメージを受けたあとに、さらにすぐダメージを受けることまで想定されているわけではありませんでした。建築基準法は最低限の基準でしかなく、絶対倒壊しないことを保証するものではありません。

実際、震度7の地震が2度襲った熊本県益城町では、補強された控え壁のあるブロック塀が倒れているものもありました。施工に問題があったのかもしれませんが、震度7が2回起こったに事によるのかもわかりません。

控え壁があるが倒壊しているブロック塀 (写真:bousaring 早川大さん)

地震大国で、震度7が2度も続けて起こったのです。倒れれば人の命を奪う可能性のある重たい塀を設置する意義を、今一度しっかり考え、長周期地震動や震度7が2回起こっても大丈夫かどうかきちんと検証していきたいですね♩

そこで、設置する意義ですが、ブロック塀の利点として台風などの風水害に強いと言われています。隣家への延焼を防ぐ効果もあります。では、防犯についてはどうでしょうか?塀が老朽化しているけど、防犯上撤去が不安だから撤去できないという声もお聞きしました。国土交通省が防犯まちづくりの推進としてこんな記載をしていることをご存知でしょうか?

ブロック塀は本当に防犯にいいの?

■安全で安全なまちづくり~防犯まちづくりの推進~(国土交通省)http://www.mlit.go.jp/common/001051008.pdf

防犯まちづくりの推進の一例として、ブロック塀を撤去することの方がすすめられていて、「ブロック塀が死角をつくり、侵入の足場ともなる」という記載や

■安全で安全なまちづくり~防犯まちづくりの推進~(国土交通省)http://www.mlit.go.jp/common/001051008.pdf

「建物の壁面後退や交差点の隅切り等による見 通しの確保や、ブロック塀の改善、老朽住宅の 建替え更新等を進めることが重要といえます。 」という記載があります。

■安全で安全なまちづくり~防犯まちづくりの推進~(国土交通省)http://www.mlit.go.jp/common/001051008.pdf

沿道のブロック塀についても「暗がりを解消するとともに、安心して歩ける歩道を確保することが重要です」とあり、ブロック塀の撤去が防犯に役立つという論調です。 撤去の一助にしていただければと思います。

もっとも、フェンスなどの設置のために2段くらいのブロック塀を使っても危険ではありません。危険なブロック塀を撤去しても、撤去であたらしい塀の基礎部分にブロック塀の需要も増やすことができるので、業界にとっても決してマイナスな話ではないのではと思います。

また、微生物と一緒にすることで、傷を自動修復するコンクリートの話題もでていて、こんな塀だったらもっと安全になっていくのかなと希望もあります。

■生物でひび割れを直すコンクリートが日本上陸(日経XTECH)
http://tech.nikkeibp.co.jp/kn/atcl/bldnews/15/041801322/

安心な未来を皆で協力して作りあげていければいいなと思っています。

ということで、今回のような悲しい事件はもう絶対にあってはいけないですよね。少なくとも2年前から警鐘されていた事なのです。もう対策をしなかったではすまされないと思っています。

震災があった神戸でさえも残念なブロック塀が・・

残念なことに今はブロック塀に関心がある方がいても、すぐに地震の記憶は風化してしまうのです。こちらは2016年に撮影した神戸市の公共施設のブロック塀の写真です。

(撮影:あんどうりす)

「あれだけブロック塀が倒壊して、死者もだした神戸でなぜ?」と、とてもショックだったので写真にとりました。公共施設なのに壊れています。鉄筋不足が心配される透かし入りなのに放置されています。風化は早いです。

希望もあります。宮城沖地震で小学生の子がブロック塀の下敷きになったことを学校の授業で習った記憶があるという宮城県出身の子育て世代の方が複数いらっしゃいました。教科書だったかもということですが、まだ写真は手にいれられていません。風化を防ぐため、教育で伝えていくというのは大切ですね。

また、すぐに何を行動したらいいかわからないという方でも、危険ブロックをみつけたら写真にとってアップするアルバムサイトもたちあがっています。いろいろな方のなんとかしたいという思いが形になってきています。

■危険ブロック塀(?)を見つけたらアップするアルバム(Face Book)
https://www.facebook.com/media/set/?set=oa.201863753977379&type=3

今度こそ、先延ばしせずブロック塀の撤去が進みますように。そして根本解決には法規制も考えなければいけないかなと思っています。もう次の地震まで余裕はありません。

(了)

© 株式会社新建新聞社