レガシーメディアの断末魔が聞こえる…同時多発で進行し始めた日本の”情報独占体制”崩壊の足音

レガシーメディアの断末魔が聞こえる…

このところ、大手芸能事務所のタレントの不祥事やテレビ局、広告代理店の不祥事が連日報じられている。これはレガシーメディアの弱体化と衰退を象徴するものであるといえる。日本のレガシーメディアは、一種の護送船団ともいえる強固な構造をもっており、世界でも稀に見る閉鎖社会であった。しかし、今、これが壊れ始めているわけである。

日本のレガシーメディアは、新聞、ラジオ、テレビと地方系列局という同じ資本に連なる縦糸と大手広告代理店、大手芸能事務所、制作会社、記者クラブというメディアを横断する横糸により、非常に強固で独占的な環境を維持してきた。これこそが日本最大の既得権益であり、言論の自由や報道の自由の最大の障壁になってきたわけである。

国際的な基本原則として、「メディア集中排除原則」というものがある。これは一つの資本が複数のメディアを保有し、情報を支配することを否定するものであり、情報操作を難しくし、様々な意見を言える空間を守ることで、利用者や国民を守るためのものである。例えば、アメリカでは保守系のFOXとリベラルメディアであるCNNは全く異なる論調を撮っており、お互いにお互いのことを自由に批判しているわけである。それに対して、日本はこれを規制しておらず、メディアスクラムによる一種の独占体制にあるわけである。

そのため、日本ではメディア集中排除原則が守られていないことが報じられることもなく、国民の多くがこれに疑問を持たないままであったわけだ。しかし、インターネットの普及などにより、レガシーメディアによる情報独占が難しくなるとともに、新たなライバルの登場でビジネスモデルの崩壊が始まっているわけである。

■新聞界のタブー「残紙」も明るみに、セクハラ疑惑で記者クラブも特権剥奪?

新聞では、最大のタブーと言われてきた「残紙問題」(販売数の水増し)を知る人が増え、国会でも取り上げられ始めている。また、広告主の株主総会でも取り上げられ始め、企業も対応を迫られ始めている。新聞残紙問題は新聞社による一種の詐欺行為ともいえるものなのである。

例えば、企業から100万部分の広告代を得ていたとする。しかし、実際の実売数はそれより遥かに少ないわけである。この差が残紙と呼ばれるもので、不当利得と認定される可能性があるわけだ。この場合、過去10年遡り返還請求を受ける可能性があるのだ。その場合、潰れる新聞社も出てくるだろう。

そして、次にテレビとラジオである。キー局はまだ良いものの地方局の赤字が問題になり始めており、次世代の放送規格である4Kや8K向けの投資が進んでいない状況がある。費用面から対応できない地方局が出てくる可能性が高いのである。レガシーメディアの特徴は一方的情報提供であり、広告の効果が見えないことにある。それに対して、インターネット広告はクリックなどで広告効果が明確に反映され、成功報酬型の仕組みも存在する。このため、企業は費用対効果が計算しやすい。このため、スポンサー企業などがインターネット広告へシフトしており、将来性が見込めない状態になっている。

横糸となる広告代理店、大手芸能事務所にも大きな変化が起きている。広告代理店のガリバーである電通も、社員の死が原因となり、そのあり方が問われている。芸能事務所最大手ジャニーズ事務所も分裂と複数の所属タレントの不祥事により、メディアとの関係が急激に悪化しているのである。

また、記者クラブも、財務省職員のセクハラ疑惑問題により、その存続意義が問われる状況になりつつある。これまで、メディアと官僚は、記者クラブとその人間関係を利用し、一種の共依存の構造にあった。記者はクラブを利用し、官僚たちと関係を深め、リーク情報などをもとに記事を書いてきたわけである。しかし、今回のセクハラ問題により、その信頼関係が瓦解し始めており、その法的問題がクローズアップされてしまったのである。あまりに当たり前のように行われてきた個人的な記者との接触、これは職権乱用であり、情報を漏らせば守秘義務違反に該当する。これが当たり前に行われてきたことが問題なのである。当然、今回の事件で見直しが行われ、記者との不用意な接触はなくなってゆくだろう。そして、レガシーメディアは一種の特権であった情報独占能力を失うわけである。

現在、これが同時多発型で起きており、レガシーメディアの崩壊を促進する状況になっているわけだ。基本的にレガシーメディアの一番の力は「報じない自由」であり、問題のもみ消しや報じないことによる問題の鎮静にあったといえる。しかし、インターネットなど他のメディアが拡大したことにより、この力が減退し、「今までは」という経験則が通じなくなってしまったのだ。これが今のメディア不祥事の表面化の原因であり、レガシーメディア崩壊の序章とも言えるものなのだろう。

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