外来リス 長崎・五島で生息域拡大 捕獲に苦慮 市、被害防止へ体制見直し 

 特定外来生物クリハラリス(タイワンリス)が、長崎県五島市の福江島で生息域を広げている。市内で動植物の観察を続ける「五島自然環境ネットワーク」代表、上田浩一さん(48)が4月末まで実施した調査で分かった。市がわなで捕獲を進める地域外でも繁殖しているとみられ、専門家は「早く対策を打たなければ手が付けられなくなる」と警鐘を鳴らす。被害の現状と対策を探った。

 クリハラリスは本来、東南アジアや台湾に生息。尾を含めた体長は40センチ程度と日本のリスより大きい。繁殖力が強く、1回に平均2匹、年間で最大3回出産する。国内では1930年代ごろから自然界で繁殖し、東京都伊豆大島や熊本県宇土半島、県内では壱岐市でも生息が確認されている。もともとは動物園などで飼われていた個体が逃げ出したとみられる。木の果実や花、虫、鳥類の卵などを食べ、農業被害や生態系の乱れが懸念されることから、環境省が2005年、特定外来生物に指定した。
 上田さんの調査は昨年11月から今年4月にかけ、福江島内の73地点で実施。樹木に餌となるクリを取り付け、かじられるなど生息の可能性がある場所には後日、センサーカメラを設置した。4月下旬、カメラの回収作業に同行し、被害現場を案内してもらった。

  ■無数の傷

 五島市上大津町の鬼岳天文台近くの雑木林。「リスが食べた跡です」。上田さんが指し示したツバキの幹に、環状の傷が無数に刻まれていた。クリハラリスの特徴だ。周囲にも同様に痛々しい傷のある木がちらほら。餌が少ない冬場に皮をかじり、樹液をなめるという。「木が弱るだけでなく、花や実も食べるため、つばき油の生産などに影響が出る恐れも」。上田さんは深刻な表情で語った。
 この日は映像を確認できなかったが、調査期間中、島北部の戸岐町や南部の富江町田尾地区など11地点(地図の赤丸)で姿を撮影し、生息を確認したという。この結果は、従来の行政の想定を大きく超えている。

  ■「震源地」

 2003年までに県五島振興局などが実施した調査によると、生息域は鬼岳周辺の25平方キロメートル。今回の調査結果から少なくとも北に約10キロ、西に約5キロ生息域が拡大し、現時点で80~100平方キロメートル程度の面積に生息していると考えられる。1万匹程度がいるとの推計もある。3年前には島西部の七ツ岳でも確認されており、上田さんは「今回カメラを設置しなかった西海国立公園内のポイント(玉之浦町など)でも餌に動物反応があり、継続的な調査が必要」と強調する。
 五島市などによると、クリハラリスは90年代前半から鬼岳周辺に現れ、97年に初めて被害が報告された。上田さんが「震源地」と指摘するのが、かつて鬼岳中腹にあった観光施設。関係者によると、客寄せで飼われていた個体が逃げ出すなどして生息数を増やしたとの説があるが、市は「記録がなく詳しいことは分からない」とする。

  ■年に2000匹

 市は98年度から捕獲を始め、2016年度までに計約3万3500匹を捕獲。過去10年ほどは年間2千匹前後で推移している。市農業振興課によると、市内の農作物被害額は11~14年に各10万~30万円前後。スギやヒノキの樹皮を剝がされたり、ミカンなどのかんきつ類を食べられたりした。ツバキの食害による五島特産のつばき油の生産減も懸念されるが、「具体的な影響は研究中」で被害は未知数だ。
 同課は今回の調査結果を踏まえ、本年度から捕獲体制を見直した。従来はわなの個数に応じて捕獲業者に委託料を払い、設置場所も市が決めていたが、今後は業者に自由に設置してもらい捕獲数に応じて委託料を払う仕組みにした。新たに住民にもわなを貸し出し、1匹当たり800円を渡す。分布情報と合わせて提供することで、積極的に捕獲してもらう狙いという。
 同課は「被害の全容はまだ分からない。リスの数が増え続けると、電線がかじられ電話回線が不通になるなどの生活被害も懸念される。地域と一体で対策を進めたい」としている。

五島市平蔵町南河原の調査ポイントで撮影されたクリハラリス。左上にあるのは、リスを視覚的におびき寄せるピンポン球とクリ(上田さん提供)
クリハラリスにかじられたツバキの幹を指し示す上田さん=五島市内

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