【コラム】日本vsコロンビア「非日常の中で、明確になった課題」

インパクトのある展開となった日本代表のロシアワールドカップ・コロンビア戦。

注目のセネガル戦を前にこの試合の“中身”を復習をするべく、『Qoly』にもたびたびコラムを寄稿していただいている結城康平氏(@yuukikouhei)に戦術面などを改めて解説してもらった。

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一瞬が運命を左右してしまうフットボールの残酷さを、コロンビア代表は痛感したに違いない。

ギアが上がりきらない序盤、スクランブルから体勢を崩したダビンソン・サンチェスを大迫が突破し、GKの跳ね返りを香川がシュート。強さとテクニックを兼ね備えたビルドアップの軸、カルロス・サンチェスが舞台から予想外のタイミングで去ったことは、試合のプランを完全に狂わせた。

日本代表にとっては準備期間が足りない中、必死でコーチ陣にも人材を抜擢し、3バックと4バックの守備陣形を模索してきた。

その中で、最終的に4バックを選択したことは西野監督の英断だった。1トップのファルカオ相手に3バックとなる形となると、恐らく後ろに余る枚数が無意味に増えてしまう。アンカータイプの両脇にCBが進出するシステムを仕込む時間は足りず、ビルドアップの完成は見込みづらい。

選手がクラブで慣れている4バックに、3バックの中央を経験している長谷部を下げる「可変3バック」を採用することはボールの保有を容易にすることに繋がった。その形も完成度が高い訳ではなかったが、柴崎と長谷部はDFラインまで下がって3バックを作る意識を欠かさず、結果的にチームに落ち着きが生まれていた。

明らかになった「俯瞰力」の不足

ヨーロッパで活躍している選手も多く、選手の平均的なスキルが高い日本代表だが、多くの選手は「チームの中で、輝く役割を与えられている」傾向にある。

持久力や俊敏性、テクニックやポジショニングで勝負する選手は多くても、「チームを調整する」能力を評価される選手は希少だ。その事実こそ、日本代表が超えなければならない壁なのだろう。

例えばアイスランド代表は、日本代表と比べれば圧倒的にアタッカーの層は薄いかもしれない。しかし、一方で11人全員が徹底した教育によって「鎖」のようなゾーンディフェンスでスペースを埋め、組織的に攻撃を阻害する。そういった基礎のスキルが徹底されていないことが日本代表の抱える課題であり、そんな中でも多くの名選手が生まれていることは十分なポテンシャルを示している。

退場したコロンビアを相手にした前半は、攻守両面において対応力の不足を感じさせた。攻撃ではファルカオが1人しか前線に残っていない状況で、低いゾーンでの数的優位を活かせない。積極的に川島を使って、CBとの3対1という状況を作り出し、余裕を持ってボールを前進させることもできたはずだ。

SBの位置も高く、ポゼッションのサポートには距離が離れ過ぎてしまうことが多く、円滑なビルドアップができなかった。チーム全体で個々が「俯瞰」することによって様々な工夫を見せなければならなかったことに加え、西野監督も「簡単ではないとはいえ」チームにメッセージを送ることはできたはずだ。

攻撃の局面では意図の合わない縦パスやSBの無謀なオーバーラップが続き、コロンビアにカウンターを浴びる場面が目立った。セントラルハーフ2枚が高い位置を保ち過ぎて、ファルカオのポストプレーを拾われるスペースを消し切れなかったのも痛恨だった。

一方、コロンビアは4-4-1のゾーンディフェンスへと変更。21歳の若さでスペインに渡り、近代フットボールを理解したジェフェルソン・レルマを中心に中盤が組織的に日本の攻撃を食い止める。

さらに、レルマが末恐ろしいのは下がる香川への対処で、ゾーンから逃げていく相手には強烈なプレッシャーをかける。

単にリトリートするだけでは切り刻まれる場面で、積極的な駆け引きで日本を牽制。DFラインと中盤の間には極力スペースを与えず、狙ったスペースで何度もボールを奪った。また、ファルカオもカウンターではポストプレーに奮闘。両翼からの攻撃でリスクを減らしながらカウンターを狙う絵も描いており、その適応力は流石の一言だった。

選手が踏ん張れれば、監督には状況を分析し、対応策を探す余裕が与えられる。

浮き足立ってしまう時間を耐え抜き、徐々に試合展開が見えてきたタイミングでペケルマンが動く。クアドラードを下げる采配は一見カウンターの攻撃力を下げる悪手かもしれないが、実際は「リスクマネジメントとカウンター」の両面で効果的な一手でもあった。

4-4ゾーンが機能しているとはいえ、フィジカルと守備力に劣っているキンテーロを守備的MFとしてピッチに残すのはリスクもあり、ファルカオの背後にある程度スペースも存在している。そうなれば、中央に近い位置にキンテーロを配置することで乾のカットインするスペースを消して4-4ブロックの強度を高めながら、乾・長友・長谷部の間という日本の守備的な弱みを狙うことが可能となる。

実際に失点の原因となるフリーキックも、このゾーンでのミスから生まれており、長友と乾のリトリートでの守備能力は分析されていたに違いない。フィジカル面に優れる酒井、原口のサイドからの攻撃よりは、チャンスが生まれやすいのは当然だ。

アタッカーの位置にキンテーロを残した采配への対応も、後手になってしまった感は否めない。クアドラードと比べればスピードに劣るキンテーロだが、中央のスペースを使うプレーを好む。そうなれば、長谷部を底に置くことで危険なスペースへのカバーを徹底させ、香川と柴崎をセントラル的な位置でプレーさせる選択なども考えられた。

攻撃的なセントラルを置けばキンテーロは前に出づらくなり、守備の面でも挟み込むような対応が容易になる。そうなれば、失点を防げていた可能性もある。

ペケルマンが掛け違えたボタンと、日本の的確な修正

ハメス・ロドリゲスの投入は、ペケルマンにとって「キンテーロをピッチに残す決断」とセットとなるものだった。攻守に献身的に走り回ったキンテーロを下げ、絶対的なエースを投入。勝ちパターンに思われた采配だが、10人のコロンビアにとっては「負荷の増大」が深刻となる。

ハメスが高い位置を取って4-3-2になると「日本代表の両サイドバックへのプレッシャー」が弱くなり、そこにボールが入る展開になる。後半、左右に揺さぶりながらコロンビアを引っ張り出すようなポゼッションにシフトした西野監督の采配は正しく、4-3-2で攻めこもうとしたペケルマンの「驕り」と「焦り」によって試合が動く。

10人の相手に焦って攻め込むのではなく、冷静に数的優位を活用しながら試合を進めた日本に対し、ハメス投入後のコロンビアには焦りが充満していた。当然10人で耐えなければならない時間が長いことでの疲労感もあり、そこでさらに日本のパスワークに振り回されるのは拷問に近い。

少ない人数でゴールを狙わなければならない状況でのハメス投入自体は間違いではなかったが、10人であることを考慮すればペケルマンは彼に「王様」として振る舞うことを許すべきではなかった。途中交代のハメスをサイドハーフとして走らせ、少なくとも4-4-1は保たなければならなかったのだ。

日本人選手はあるスペースでプレッシャーが弱まれば、そこを利用して次々にボールを動かすテクニックを武器にしている。さらにカルロス・バッカの投入で5-2-3にすると、バランスは完全に崩壊。コロンビアが10人で保っていたギリギリの緊張感は失われ、日本は余裕を保ちながら試合を終わらせた。

コロンビアを破った歴史的なゲームは、奇跡として語り継がれるだろう。それに加え、この試合は日本代表にとっての課題を明確化する重要な節目となった。内容を冷静に分析し、次の試合や育成に活用することが、近い未来の成功に繋がっていくに違いない。

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