【特集】正解だった「ビッグスリー」起用 西野采配「偶然の中に必然」

セネガル戦の後半、同点ゴールを決め柴崎(左)、大迫(右)と喜ぶ本田=エカテリンブルク(共同)

 勝てた試合だった―。そう残念がった人もいただろう。

 一方、こう胸をなで下ろした人も同じくらいいただろう。負けなくて良かった、と。

 結論からいうと、どっちもあり。まさに紙一重の試合だった。

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会が開幕して以来、〝必然〟と言える番狂わせが数多く起こっている。日本が属する1次リーグH組も第1戦を終えて、チーム間の序列がガラッと変わった。同ランキングでポーランド(8位)、コロンビア(16位)に次ぐ3番手だったセネガル(27位)が、チームとしては一番強いと、誰もが認識し始めた。ちなみに、日本は最も下の61位。そう国際サッカー連盟(FIFA)ランキングなんて、あまり当てにはならないのだ。

 そのセネガル。アフリカ特有の抜群のフィジカルはもちろんだが、チームとして洗練されている。それもそのはず、このチームの選手たちはセネガル国籍というのは名ばかりで、ほとんどがフランス生まれのフランス育ち。完全にオーガナイズされた欧州のチームなのだ。加えて、マネやクリバリといったモンスター級のタレントがいる。

 2日前までとても寒かったものの、前日から急に夏めいたロシア中央部の大都市、エカテリンブルク。24日(日本時間25日)、この地で日本がセネガルを相手に繰り広げた真剣勝負は、双方が魂を込めてプレーしたゆえに試合内容が時間ごとにさまざまに変化した。ちょっとした心の揺れがゴールへの布石となったのだ。

 相手に先制される。日本が絶対避けたかったことだ。しかし、そのもくろみは試合早々に崩れてしまう。前半11分、セネガルのエースがゴールを決めたのだ。この失点は、ピンチの可能性を少しでも低くしたいというサッカー選手の本能が裏目に出た。右サイドのワゲが放ったクロスをヘディングでクリアしたのが原口元気。おそらくそこで脳裏をよぎったのは「CK(コーナーキック)にはしたくない」の思いだったのだろう。ところが、バックヘッドではじき返した落下点が悪かった。そこに待ち受けていたのは相手選手のサバリ。強烈なシュートが、GK川島永嗣を襲う。

 川島にも迷いが出た。目の前にはマネが詰めている。キャッチミスをすれば大ピンチを招いてしまう。とっさにパンチングを選択したが、ミスしてしまった。はじき返したボールがマネに当たり、痛恨の失点となった。

 しかし、もくろみどおりいかないことが逆に自らを利することもある。前半34分、左サイドをオーバーラップした長友佑都に、柴崎岳からロングパスが入る。長友はうまくトラップできず、大きくはねてしまった。ところが、幸運なことにこのボールが相手DF2人の間を割ることになる。そのボールをフォロー後、内側に切れ込んで、右足でファーポスト際へたたき込んだ乾貴士も「あれは佑都君のトラップミスでしょう」と振り返ったが、結果オーライということもあるのだ。

 とはいえ、この攻撃方針は狙い通りだったという。「スカウティングで相手の右サイドに穴があることは分かっていた」。原口はそう語る。「相手の右サイドバックはかなり高い位置を取る。その裏のスペースを狙うのは予定通り」だったのだ。

 後半26分、完全に守備組織を右から左へと振られて、ワゲに1―2とされた時点で敗戦の可能性は高まった。しかしながら、大会前は誰の目にも頼りなく映った日本代表は、急速な進歩を遂げていた。互角とまではいかなくても、攻撃と守備のバランスが良くなったことで、強豪を倒すチャンスを確実に持てるようになった。さらに、選手起用がことごとく当たる。西野朗監督の采配には「偶然のように見える必然がある」とさえ思えてくる。

 後半27分、30分と、本田圭佑、岡崎慎司が相次いで投入された。そして、33分。2―2の同点ゴールが生まれる。絡んだのはこの2人だ。岡崎がGKヌジャイともつれ込んでこぼれたボールがペナルティーエリアの左サイドへ流れる。このボールをまたまた収めた乾の視線の先には本田の姿があった。コースに立ちはだかるはずのGKヌジャイは日本から見て岡崎の後方。ボールに関係するためには岡崎が壁になる。その障害物を突き倒せば、PKの結末が待ち受ける。乾はフリーの本田にさほど難しくない当たり前のパスを通せばいいだけだった。

 香川真司、本田、岡崎、いわゆる「ビッグスリー」のメンバー登録が大会前、賛否両論を巻き起こした。ふたを開けてみればコロンビア戦も含めた2試合で、3人全員が得点に絡んでいる。中でも、本田は試合途中からの起用ながら1得点1アシスト。W杯3大会連続で、得点とアシストを記録する偉業を成し遂げた。

 日本のセネガル戦の後に行われたコロンビア対ポーランドは、コロンビアが3―0と圧勝した。この結果を受け、日本は次戦のポーランド戦で、勝つか引き分けで決勝トーナメント進出が確定する。また負けてもセネガル対コロンビアの結果で可能性を残す。

 この状況でも西野監督は「勝ち」を追求するだろう。この姿勢は間違いなく日本が長年追い求めながらも焦点を定められなかった、独自のスタイル確立の基礎につながるはずだ。日本列島を盛り上げるサムライ・ブルー。手に汗握る日々は、しばらく続きそうだ。

 岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目となる。

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