金正恩氏が安倍首相への「攻撃」を準備している

トランプ米大統領は12日の米朝首脳会談で、金正恩党委員長から「完全な非核化」の約束を引き出した。しかしそのかわり、北朝鮮の人権問題を置き去りにしたと批判されている。

ポンペオ米国務長官はこの指摘に関し、23日放映のMSNBCテレビのインタビューで、北朝鮮問題では非核化が米国の最優先課題であり、人権問題に本格的に対処するのは非核化実現後になるとの見通しを示した。

金正恩氏にとっては、思惑通りの展開だろう。核兵器は、どのような形で非核化するにせよ、その気になれば新たに作る余地は残る。しかし、人権問題はそうはいかない。国民の人権に配慮して恐怖政治を止めてしまったら、金正恩氏は権力を維持できないからだ。

北朝鮮の対韓国宣伝ウェブサイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は24日、韓国の北朝鮮人権財団が朴槿恵前政権により残された「対決の残滓」であるとして、解体を要求。同様の性格を持つ週刊紙・統一新報もこの前日、同じ主張を掲げた。

このような主張をぶつけずとも、韓国政府はすでに北朝鮮の人権問題に消極的だ。韓国国会で2016年3月に成立した北朝鮮人権法は、「北朝鮮の人権の実態を調査し、南北人権対話と人道的支援など北朝鮮の人権増進と関連した研究と政策立案」を目的に、北朝鮮人権財団を発足させることを定めている。

ところが文在寅政権は、正式発足が遅れている北朝鮮人権財団の事務所の賃貸契約を、今月末で打ち切る方針を明らかにした。財政的な問題が理由であると説明しているが、北朝鮮との対話維持のための「いけにえ」とした疑惑が拭えない。一部世論から批判を浴びるや、文在寅政権は「今後も発足に努力する」とコメントしたが、北朝鮮側がこれにかぶせるように繰り出してきたのが対韓国メディアの論調である。

北朝鮮にとっては、米国が人権理事会からの脱退を表明したのもウェルカムな展開だ。同理事会は、北朝鮮の人権侵害追及の重要な場となっており、米国の役割は大きかった。特に、オバマ前政権のサマンサ・パワー国連大使は火花の散るような鋭い論調で、政治犯収容所の残虐性などを厳しく追及した。

金正恩氏が自分に向けられた人権問題をつぶす上で、残るターゲットは日本である。国連総会と国連人権理事会では10年以上にわたり、北朝鮮の人権侵害に対する非難決議が採択されているが、その決議案の共同提出者は欧州連合(EU)と日本だ。国連総会での採択は毎年12月だが、今年はその時期が巡ってくる前に、北朝鮮は日本に対し「日朝首脳会談を開きたければ止めておけ」と圧力をかけてくるだろう。

これとどのように渡り合うかが、安倍政権にとって当面の対北外交の課題と言えるだろう。

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