第18回:地球と共生する食 ~SDGs時代のダイエットとは?~ 「いただきます」「もったいない」の復活

食べられるものが捨てられる「食品ロス」への関心が世界的に高まっています。その背景には、食をめぐる不均衡と大きな歪みがあります。飽食の時代と言われますが、世界人口では1割強の人々は栄養失調と飢餓に苦しんでおり、他方で約1割の人々がメタボリックシンドローム(肥満疾患など)に苦しんでいます。

日本では、食用にされる食料のおよそ3分の1が食品廃棄物となり、そのうち2割強の621万トンは、食品ロスで捨てられている状況です。それは世界全体の食料援助量(約320万トン)の2倍に相当する量です。食品ロスの半分強が食品関連業者からですが(需給のズレ、商慣行)、半分弱は家庭から出ていますので、私たちの食べ物に対する生活態度が問われてます。

私達は、食べる前に「いただきます」とよく言います。この言葉は、食料不足だった戦前から戦後にかけて定着した比較的最近の習慣です。生きものの命をいただく、食べものを作る人や大地・自然への感謝の気持ちが込められていた表現です。ひと昔前には、神棚や仏壇へのお供えの習慣、四季折々での行事食、豊穣を願う「田の神」や「山の神」を祝う儀式などがあって、食と農への敬いや「もったいない」意識がありました。

関連して「身土(しんど)不二(ふじ)」という言葉があります。自分の身体と土(大地・自然)が切り離せないことを表します。この言葉のルーツは仏教にあるようですが、生態系の循環の中で人が生きている様子を感覚的にとらえた言葉です。いまこの言葉が、「エコロジカル・ダイエット」(エコ・ダイエットと略)という考え方として再生しています。   

地球と共生するダイエット

ダイエットといえば、自分がスリムになるため、あるいは健康のためにするものですが、エコ・ダイエットは自分のみならず地球環境のためにもなるダイエットです。便利さと裏腹の環境負荷型の生活を見直して(省エネ、省資源)、地球への負担を減らし、さらに世界の不平等(歪み)にも想いをはせるSDGs時代の新たなダイエット思想と言っていいでしょう。

世界の食料は先進国を中心に過剰消費されており、貧しい国の人たちは十分な食料が入手できないギャップ(歪み)が存在します。世界の歪みを、自分の生活に引きつけて見なおそうというのもエコ・ダイエット的な発想です。食べすぎは自分の身体にもよくありませんし、食品を捨てれば環境に負荷をかけます。

食べものを浪費(食品ロス)している先進諸国がダイエット(適正化)すれば、環境負荷も減らせて、自分だけでなく、地球の健康(ダイエット)にもなる、自分の健康と地球の環境がつながっているのです。

さらに「自分の生活をスリムに健康的にしていくダイエット」が、「環境負荷を減らして地球環境の保全」と共に、そこで節約されたもの(お金)を「世界の不均衡を是正する(途上国の環境改善、教育改善)」につなげる取り組みも生まれています。

いわば三つのお得が実現できる“一石三鳥”をめざす「地球にダイエット」運動です。これは、1997年気候変動枠組み条約・京都会議を契機に、市民団体(環境NGO、国際協力NGO)が運動として展開したものですが、今は環境教育プログラムとして活用されています。

注目すべきは、この発想がSDGs目標のゴール12(持続可能な消費・生産)のめざす理念を先取りする取り組みだったことです。とくにSDGsが強調する複数ゴールの同時達成という点でも、相乗効果をめざす興味深い実践例です。       

「美味しい」:エコ、エシカル、オーガニックの結合

ひと昔前(1960年代)の食卓をまかなう食材は、ほとんどが近郊からのものでしたが、現在は、遠い国や地域から運ばれてきます。鮮度を保って長距離輸送する技術革新の結果ですが、エネルギー消費(CO2 排出)も多くなっています。実際に昔と今の食材比較してみると、輸送にかかるエネルギーとCO2排出量は、1960年代と比較して6倍強になると計算されます(*「地球にダイエット」パンフより)。

日本の食料自給率(カロリーベース)は3割ですので、海外産の耕作面積を推計すると国内耕地面積の2倍強となります。国外の農地の中には、貧しい国々の農地もふくまれていますので、間接的には食料不均衡にも関与していることになります(詳細は別に論じたいと思います)。

また、国産の食材についても旬や有機(オーガニック)を大切にしたいものです。季節外れや化学肥料・農薬依存の野菜は、環境負荷を前提とします。季節を大切にする旬は、その野菜や果物や魚がいちばんおいしい時期のことです。栄養価も高く、美味しく、値段も手ごろなので、旬のものを食べることが自分の健康によく、経済的にも環境的にもお得です。

和食が世界遺産に登録され、長寿大国の日本の食に世界的な関心が高まりつつあります。ジャパン・クールの展開として、SDGs時代のダイエットを「身土不二」と「地産地消」(地域産品の重視)の考え方において再構築していくことが大事です。「もったいない」に続く言葉として、「美味しい」の奥深い意味内容を、地球や世界と共生する食の思想実践(日本的食の思想)として提起できないでしょうか。

将来的に、世界人口はまだまだ増加が見込まれており、気候変動などによる食料危機・リスクも心配されています。かつて自動車産業で、ジャスト・イン・タイム(トヨタかんばん方式)という効率生産が世界を席巻しました。

食品ロスの削減でも、日本的なきめ細かいロス削減方式が編み出されて、世界の手本となることが期待されます。もう一歩進んで、一石三鳥のダイエットとして、エコ、エシカル、オーガニックが一緒になるSDGs時代の新たなダイエット思想を世界に発信したいものです。

*パンフ資料:http://www.jacses.org/ecosp/diet_for_the_earth.pdf

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