『パンク侍、斬られて候』 前衛性とハチャメチャさに満ちた大作

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 芥川賞作家・町田康の映像化不可能、というよりも映像化することに意味がない(ように思える)小説の映画化に、石井岳龍が挑んだ新作だ。だから、物語自体を楽しむ映画ではない。あえて概略を記すなら「江戸時代のとある藩の権力争いが生むハッタリ合戦」となろうが、「パンクな時代劇」で十分。パンク! そうなのだ、これは石井聰亙の頃への原点回帰宣言なのだ。

 しかも、そんな前衛性とハチャメチャさに満ちていながら、恐らく岳龍に改名してから一番の大作。キャストも豪華で、浅野忠信と永瀬正敏が出ていることも含めて、聰亙時代の最後のあだ花だった『五条霊戦記 GOJOE』を思い出させる。だが、この2作、実は似て非なる出来栄え。だって、大作の枠に縛られた『五条~』は、前衛的でもハチャメチャでもなかったから。

 言い換えるなら、岳龍と聰亙の線引きに意味はないということ。そもそも、石井聰亙の名前に伝説性をまとわせているのは、初期の作品に限られるし(だからこそ原点回帰なのだが)、『ソレダケ/that's it』『蜜のあわれ』といった岳龍になってからの傑作にも前衛性やパンク感は漂っていた。要は、キャリアを重ねたことで画面の緻密さや演出スキルが上がったに過ぎず、原点回帰に関係なく、今回もやはり面白いのだ。それでも、CGを多用したこれほどの大作で、画面の強度を保つことには限界があるようだが。★★★★☆(外山真也)

監督:石井岳龍

脚本:宮藤官九郎

出演:綾野剛、北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、永瀬正敏、國村隼、豊川悦司

6月30日(土)から全国公開

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