【現地レポート】〈マレーシアに見る「一帯一路」(上)〉中国資本、350万トン高炉立ち上げ 政権交代で目算に狂い

 独立以来、初となる政権交代でマハティール首相が「復活」したマレーシア。大型プロジェクトの凍結など政策が見直される一方、ナジブ前政権時代に中国企業が企図した高炉一貫製鉄所が稼働し始めている。国策の「一帯一路」とも複雑に絡んだ中国系製鉄所の実態を現地で追った。(パハン州クアンタン=黒澤広之)

 南シナ海に面したマレーシア東部の港町・クアンタン。首都のクアラルンプールから車で4時間はかかる穏やかな地方都市に製鉄所が誕生した。条鋼建材を造る炉内容積1080立方メートルの高炉2基・年産能力350万トンのアライアンス・スチールだ。

 アライアンス・スチールは中国・広西省チワン族自治区に本拠を置く広西北部湾国際港務集団と広西盛隆冶金の合弁会社。連合鋼鉄(大馬)集団公司という中国名も持つ。マレーシアと中国が共同開発した101ヘクタールの工業団地「マレーシア・チャイナ・クアンタン・インダストリアル・パーク(MCKIP)」に居を構え、5月に高炉へ火入れしている。

 マレーシアでは、かつて八幡製鉄が支援したマラヤワタ・スチールの流れをくむペナン州のアン・ジョー・グループが2011年に小型高炉を新設した。14年には鋼管メーカーのヒアップ・テック・ベンチャー(HTVB)が中国の首都鋼鉄から技術協力を受け、トレンガヌ州で小型高炉からスラブを造る子会社のイースタン・スチールを開設している。

 アライアンス・スチールの規模はこれらの比でなくはるかに凌ぐものとなる。

 MCKIPはクアンタン港から車で30分ほど離れた内陸にあり、鉄鉱石など原料はトラックで運び込まれる。高炉は入り口近くの正面にあり、その周囲に棒鋼や線材、形鋼といった条鋼建材の圧延工場がある。

 原料を積んだトラックが砂ぼこりを舞い上げながら続々と入構していくが、出ていくトラックで鋼材を積んだものは見られない。マレーシア標準工業研究所のSIRIMはじめ国内外の建材規格認証を得次第、本格的な商業生産や製品出荷が始まるものと見込まれる。

 アライアンス・スチールは「一帯一路」の典型的なプロジェクトだ。中国はシンガポールを封鎖された場合に備え、東岸のクアンタンから西岸のマラッカ海峡へ抜ける物流網を獲得したい思惑があるという。「連合鋼鉄」はこうしたインフラ整備で使う条鋼建材の拠点と目されていた。

 しかしマレーシアでは中国寄りの姿勢が強かったナジブ政権が5月の総選挙で敗れ退陣。マハティール新政権は6%の消費税(GST)廃止や大型プロジェクトの凍結といった政策転換を進めている。

 日本の新幹線採用が期待されていたクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道や、クアラルンプールの地下鉄(MRT)3号線は計画が撤回された。そして中国政府の狙いが込められていたクアンタン港と西岸のクラン港を結ぶ総延長700キロメートル弱の東海岸鉄道(ECRL)も昨年8月に着工していたが、マハティール新政権の下、計画見直しの対象となっている。

 これら鉄道プロジェクトで新駅の周辺開発も予定されていたが、棚上げとなる可能性が高い。いずれ軌条(レール)も造るのではないかとまで噂されたアライアンス・スチールだが、目算は大きく狂うことになるだろう。

 もともとアライアンス・スチールはマレーシア国内で3割、輸出で7割を売りさばく計画とされていた。鋼板類を含めマレーシアの鉄鋼需要は年間1千万トン程度。350万トンの製鉄所をフル稼働させるには乏しい内需だ。その内需は政権交代の余波で当面は厳しい情勢が続く。結果、東南アジア域内や韓国など東アジアへの輸出攻勢が当初の想定以上に強まる恐れがある。

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