<ブレーク盤> 星屑スキャット『化粧室』 流麗なハーモニー。人の深淵を覗かせてくれる

星屑スキャット『化粧室』

 結成から10年以上を経ての待望の1stアルバム。この一作で、音楽の、いや人間の深淵を覗いた気になる。

 Disc1の全13曲の大半の詞曲は、ミッツ・マングローブをはじめメンバー3人が手掛けているが、(J-POPと安易に括れない)歌謡曲の進化形と呼べそうな、緻密に作り上げた楽曲が並ぶ。ソフトな歌声のミッツ、妖しげな歌声のギャランティーク、折り目正しい高音のメイリーと三者の違いも面白く、何より三声のハーモニーが流麗。それらの魅力が最も端的に現れたのが『半蔵門シェリ』だろうか。他にも、松田聖子×松本隆作品への敬意が感じられる『波の数だけターコイズ』など、アルバムの新曲が既存シングル曲にも劣らない。

 Disc2は、リリー・フランキーが作詞や監修を手がけた8分超のバラード『新宿シャンソン』。一筋縄ではいかぬ恋をつづった歌詞と美しい旋律、そこに3人のしっとりとした歌唱が乗ると、夜明け直前の歓楽街を想起させる名曲に! 数十年後も歌い継がれてほしい。

 本作によって、道化に徹した人の秘技に一目置くようになるはず。

(日本コロムビア・3241円+税)=臼井孝

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