【現地レポート】〈マレーシアに見る「一帯一路」(下)〉再稼働狙う「東鋼集団」 中国国営エンジ会社が支援

 アライアンス・スチールのクアンタン製鉄所から北へ車で1時間の場所に停止したままの製鉄所がある。地場の鋼管メーカー、ヒアップ・テック・ベンチャー(HTVB)がトレンガヌ州ケママンで新設したイースタン・スチール(中国名・東鋼集団)だ。

 イースタン・スチールは小型高炉1基と連続鋳造機1基を持ち、半製品・スラブを造るメーカー。華僑系のHTVBが中国の首都鋼鉄集団と組み、2014年末に稼働させたものの、当時の市況悪化で15年10月に操業を停止した。

 スラブ生産は止めたものの、今も設備は残ったまま。そのイースタン・スチールに、まばらながら人の出入りがある。中国国務院の国有資産監督管理委員会(国資委)が直轄する国営の大手エンジニアリング会社、中国冶金科工業集団(MCC)の中核企業である上海宝冶集団のエンジニアが「出勤」し、屋内で工事を行っているのだ。

 中国宝武鋼鉄集団とも関係が深い上海宝冶集団はマレーシア現地法人を持ち、アライアンス・スチールの高炉や転炉の新設工事も手掛けた「一帯一路」の実働部隊。現在はジョホールバルのラルキン・スタジアムで行われているリプレース工事も行っており、ナジブ前政権下のマレーシアで多くの実績を積み上げてきた。

 その上海宝冶が、イースタン・スチールで4月中旬から連続鋳造機の新設プロジェクトに乗り出した。約半年をかけて製鋼工場を拡張し、連鋳を2基へ増やす。増設する連鋳は6ストランド(条)で、ビレットを新たに造る狙いだ。

 イースタン・スチールは、年産能力70万トンでスラブのみを生産してきた。現状、スラブは世界的に不足しており、韓国の東国製鋼やタイのサハビリヤ・スチール・インダストリーズ(SSI)は調達難に直面している。

 イースタン・スチールは8月からスラブ生産の再開を予定しており、早々に年率70万トンのフル稼働に達すると見込んでいる。さらにビレットにも進出し、全体の年産能力を120万~150万トン程度へ引き上げる構想だ。

 にわかにイースタン・スチールが再生へと動きだしたのは、市況の好転だけが理由ではない。上海宝冶が乗り込んでくる直前の4月上旬、親会社のHTVBはイースタン・スチール株の一部売却を決めている。

 今のイースタン・スチールの出資比率はHTVBが55%、首鋼の投資会社であるオリエント・スチール・インベストメントが40%、チャイナコ・インベストメントが5%。かねて首鋼はイースタン・スチールから撤退する方針を示し、一時は鞍山鋼鉄へ株を売却しようとしたが最終的にまとまらなかった。

 このオリエントの全保有株とHTVBの20%分を中国民営の大手鉄鋼メーカー、北京建龍重工集団が傘下の山西建龍宝業を通じて買い取る。売買は来年の2月ごろに完了する見込みだが、建龍がイースタン・スチールの株式60%を持つスキームだ。

 最終的に中国資本の傘下となるイースタン・スチールには、建龍から無利子で資金が貸し出されている。再稼働に向けた運転資金やビレット連鋳、スラグ処理設備の導入などで計3億9800万リンギット(約100億円)を投じ、その工事を上海宝冶が行うあたり、イースタン・スチールもアライアンス・スチール同様、中国の国策製鉄所と化しつつある。

 中国資本が入り変質したマレーシア企業の好例がある。国民車メーカーのプロトンだ。ナジブ前政権下でプロトン株の49・9%が中国の浙江吉利へ売却され、以降、プロトンは部品を中国から輸入するようになったという。果たして「東鋼集団」はどう変わるだろうか。(トレンガヌ州ケママン=黒澤広之)

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