山田久志氏が考える「プロとは何か」 ファンに愛された星野、衣笠の思い出語る

5月27日のオリックス対ロッテ戦のセレモニアルピッチに登場した山田久志氏【写真提供:オリックス・バファローズ】

中日・星野監督に口説かれ1999年に投手コーチに就任

 今年1月に中日、阪神、楽天で監督を務めた星野仙一氏が逝去。4月には広島一筋に活躍し、連続試合出場のプロ野球記録を持つ衣笠祥雄氏がこの世を去った。両氏と親交が深かったという山田久志氏が2人との思い出を語った。

 星野氏とは年齢は1歳違うが、ともに1968年のドラフト1位指名を受けプロ入りし、ポジションは同じ投手。さらに、中日で星野氏が監督、山田氏が投手コーチを務めていたことから、プライベートでも近い存在だったという。闘将として知られた星野氏だが「気遣いの人だった」と、山田氏は話す。

「選手に鉄拳も振るったけど、気遣いの人。選手の家族を大事にしていて、そういうところに神経を使っていた。監督でありながら政治家みたいなところがあって、人脈もすごかった。中日の監督は11年やったけど、阪神の監督はわずか2年しかやっていない。それでも、ファンの人は中日の監督よりも、阪神の監督のイメージのほうが強いでしょ。関西に合うんだよね、仙さんの気遣いは。名古屋であれほど実績を作ったけど、あっという間に阪神の星野になった。人を引き付ける魅力があったんだね」

 そんな星野氏との一番の思い出は、当時中日の監督を務めていた星野氏に口説かれ、1999年に投手コーチに就任した時だという。

「全然行く気はなかったんだけど、仙さんが涙を流しながら『助けてくれ』って言ってくれた。行ける条件じゃなかったし、私も頑固なんだけど、それをひっくり返すくらいのバイタリティがあった。あれから付き合いが長くなったね」

 星野氏が阪神、山田氏が中日の監督を務めていたときには、試合中にグラウンドでケンカをしたこともあると、懐かしそうに振り返った。

「最初、谷繁と矢野がやり出したんだよ。こっちがぼろ負けの試合だった。もう勝負は決まっているのに、矢野がバントをしようとして、谷繁が『こんな試合でバントですか』って言ったら、矢野が『監督のサインなんだから』って答えて。そうしたら星野さんが『谷繁コラー。貴様バカヤロー』って始まってね。私も『監督の出る幕じゃないだろう。こんな野球あるか。アホー』って。でも次の日には二人で笑ってね。半分はショーだっていうのを、お互い分かっているから。仙さんはファンが喜ぶから、計算して審判とケンカして退場になったりしていたよ。ファンに喜んでもらうことを考えている人だった」

 一方、衣笠氏とは、現役時代には1975年、1984年の日本シリーズで対戦したことがあり、ともに名球会のメンバーでもあったため、親しい仲だったという。山田氏は日本シリーズでの対戦を「豪快なフルスイングだった。日本シリーズだから、真っ向勝負というわけにはいかなかったけど、気持ちのいい勝負、細工なしの勝負だった」と懐かしんだ。

現役時代は日本シリーズで勝負、名球会メンバーだった衣笠氏

 近年も衣笠氏とはテレビ中継の解説を一緒に行っており、年に数回は会って話をしていたという。

「一緒にお酒を飲んでいても『グラウンドに出てなんぼだからな、俺たちは。グラウンドに出ないことには話にならない。野球をやるのが楽しくて仕方ない』って言ってた。『ユニフォームを着られたら、本当にそれだけでいいわ』って。骨折しても試合に出ていた人だから。ずーっと野球少年だね、あの人は。本当にユニフォームを着て野球をするのが好きだった」

 そんな衣笠氏だが、引退後に監督、コーチを務める機会は無く、自身が現役時代に付けていた広島の永久欠番、背番号「3」のユニフォームに再び袖を通すことは無かった。

「監督もコーチもやりたかっただろうに、縁がなかったね。広島のユニフォームを着たかったと思う。引退後に一度も着られないというのは、寂しかっただろうね。着せてあげたかった。今のカープの土台を作った人だからね」

 ファンに喜んでもらうことを常に考えていた闘将、星野氏と、骨折をしてもファンの前でプレーを続けた鉄人、衣笠氏。山田氏は今の選手たちにも「プロとは何か」を、いつも考えていてほしいと訴える。

「いい選手で終わったらだめ。プロなんだから上手くて当たり前。プロは見せるものだから、お客さんが喜んでくれるようなプレーをしなきゃいけない。福本さんだったら『いつ走るんだろう』、王さんだったら『いつホームラン打つんだろう』、イチローだったら『必ずヒット打つんだろうな』と、ファンは楽しみにする。今だったらオリックスの吉田正かな。ファンはフルスイングを期待している。そういう特徴のある選手にもっと出てきてほしいね」

 そう力を込める山田氏は、ファンに愛された2人の訃報に心を痛めながらも、新たなスター選手が球界に誕生することを願っている。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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