【論説】イコモスが登録勧告 潜伏キリシタン遺産

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)が世界文化遺産に登録するよう勧告した。同遺産を構成する長崎県と熊本県の12資産は全て対象となっており、6月下旬から始まるユネスコ世界遺産委員会で正式に登録が決まる見通しだ。「明治日本の産業革命遺産」に続く本県からの世界遺産誕生を期待したい。

 長崎県内に点在する教会群を世界の宝にしようと、有志による「長崎の教会群を世界遺産にする会」が発足したのは2001年。それから17年。幾多の曲折を乗り越え、やっと宝の仲間入りが見えてきた。

 民間で始まった活動は、行政も巻き込み「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として07年に国内候補である暫定リストに入った。そのまま順調に推移するかに見えたが、登録総数が増える中でユネスコは12年から、世界文化遺産の推薦を1国につき年1件に制限。この年は、1枠を競った「富岡製糸場と絹産業遺産群」が推薦され、翌13年には、内閣府が「産業革命遺産」を推し、先を越される結果となった。

 それでも15年には政府の推薦を得て、翌年の登録は間違いないと見られていたが、イコモスの反応は厳しかった。勧告前の中間報告で「価値の証明が不十分。禁教と潜伏の時代に重点をおくべきだ」と指摘、「登録延期」の見通しが示されたのだ。政府は再起を期して推薦を取り下げざるを得なかった。

 勧告の段階で構成資産の一部が除外を求められることは珍しくない。13年登録の富士山は三保松原が除外勧告を受けた。昨年は「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」が、沖ノ島以外の資産は「世界的な価値を認められない」と指摘された。どちらも勧告後、世界遺産委員会構成国に価値を説明し、除外勧告を受けていた資産も含め登録されたが、勧告後の関係者の動揺は大きかった。

 長崎県はイコモスとアドバイザー契約を結び、助言を受けながら内容を練り直す道を選択した。指摘に沿って名称を変え、禁教期と直接的な関連がない「日野江城跡」「田平天主堂」の2資産は除外した。教会建築メインから禁教期の歴史中心に転換したことの帰結とはいえ、関係者にとっては苦渋の決断だった。

 潜伏キリシタン遺産は全構成資産が登録勧告に盛り込まれた。世界の名だたる遺産のように派手ではないが、江戸幕府による弾圧や迫害にさらされながらも信仰を守り続けてきた営みが「独特の文化的伝統の証拠である」と評価された。アドバイザー制度を活用した選択は間違っていなかった。世界遺産委員会の開催が待ち遠しい。

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