『感じて、ゆるす仏教』藤田一照、魚川祐司著 がんばる修行からの転換

 書名からマイルドな仏教入門書だと思ったら大間違い。国際的に活躍する禅僧と仏道の実践者でもある著述家が、遠慮会釈のない問答を重ねて仏道修行の真髄を探った。

 議論の起点は、藤田が提唱する“修行パラダイムの転換”にある。すなわち苦行を我慢して続けるガンバリズムから、自己に生じる変化を感じて受容する形へのシフト。自分が「命令して、コントロールする」のではなく「感じて、ゆるす」。意識主導だと心身が閉じて人智を超えたはたらきを感得できないからだという。

 かつては苦行タイプだった藤田が修行のモードを変えた大きなきっかけは、結婚して子供を持ったことだった。子供ができた時の動揺、妻子への粗暴なふるまいなど藤田は驚くべき率直さで自らの未熟ぶりを明かす。のっぴきならない人間関係の中で、理屈を超えた感情の大きな力を実感したという。

 妻帯が一般的な日本の僧侶のあり方は「愛欲に堕した」として海外では否定されがちだ。しかし2人はそこに修行が自己陶酔や独りよがりに陥らないという利点を見出す。この時、一人座禅を組むという孤高の修行イメージは他者と深く関わっていく方向へと転じる。

 藤田はがんばる修行を捨てて最初から「感じて、ゆるす」ことを勧める。これに対して魚川は苦行もプロセスの一環として有益だと反論する。認識を深く共有しつつ、両者の主張はぶつかり交わりながら縦横に展開していく。

 2人の求道者が仏教の未来を模索する真剣勝負だ。

(KADOKAWA 1500円+税)=片岡義博

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