伊能忠敬没後200年

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華やかな「雛舟春祭り」。下の写真の左側の家屋が「伊能忠敬旧宅」

 鉄道と地図は切っても切れない間柄だ。地図を眺めているだけでわくわくするという鉄道ファンも多いはず。私もその1人である。

 今年は、実測で日本地図を初めて作成した伊能忠敬の没後200年。日本中を歩いた忠敬だから、各地でその功績をたたえる展覧会やイベントが開かれている。

 千葉県北部の香取市佐原は、江戸時代から利根川の水運で栄えた小商都だ。忠敬が婿入りして財を成した伊能忠敬旧宅と、国宝に指定された一群の地図類、測量記録、器具など全2345点(は覚えやすい)を所蔵する伊能忠敬記念館が、利根川につながる小野川を挟んで向かい合っている。

 そんな忠敬ゆかりの地を訪ねたいと思い立ったのは3月初めのこと。東京都内からはJR総武線で千葉、成田を経由して成田線の佐原を目指すのが普通に思いつくルートだ。

 しかし、時刻表を見て少々困った。成田空港へのアクセスは頻繁でも、成田から先、北総地域へのダイヤは少なく不便。検索ソフトでは、高速バスが優先表示されてしまう始末だ。東京に隣接した千葉でも、車社会に押されて鉄道は肩身が狭くなりつつある。

 でも、せっかくなら鉄道で行きたい。そう思って見つけたのが、臨時特急の「北総江戸紀行」である。新宿発8時5分。総武緩行線で秋葉原を抜け、錦糸町で総武快速線に入り、佐原には9時54分に到着する2時間弱の旅(約100キロ)。使用される車両は、房総地域ではおなじみの鮮やかな「菜の花色」をしたE257系、全車指定席の5両編成だ。

 日曜日なので混んでるかと思いきや、新宿駅構内の雑踏がうそのように、座席は2割程度埋まるだけ。車内販売はないし、観光案内のアナウンスもない。列車名は豪華なのに、車両前部の表示は「臨時」だけ。もうちょっと演出してくれないかな、が正直な感想だ。とはいえ、乗り心地は良かったのが幸い。

新宿駅で発車を待つ臨時特急「北総江戸紀行」と瓦屋根が見事な佐原駅

 佐原に着くと、思いがけずその日はちょうどひな祭りのイベントでにぎわっていた。旧宅前に向かうと、雛人形に扮した男女、子供たちが雅楽の音に乗って舟下りを披露する「雛舟春祭り」の船列に遭遇。川端を囲むたくさんの観光客から歓声が上がった。観光バスでやってきた団体旅行客も多いようだ。

 忠敬の測量術習得の原点になったとも言われる利根川の堤防筋や近くの香取神宮にも足を延ばし、収穫の多い1日だった。

 忠敬は49歳で隠居後、江戸に出て天文学と測量術を習得。55歳から足掛け17年かけ弟子たちを率いて全国を測量して歩き、その地道な作業の積み重ねが大業につながった。都内には隠宅跡、遺言に従って師の墓の隣に葬られた墓、記念碑や銅像など忠敬ゆかりの地が多数あり、こちらはいずれも地下鉄の利用が便利だ。

 ☆篠原 啓一(しのはら・けいいち)1958年東京都生まれ。共同通信社勤務。新宿から佐原に直通する臨時特急は季節によって「あやめ祭り」など名称を変えて運行されます。