世界遺産登録決定 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 禁教期の独自信仰評価

 中東バーレーンで開催中の国連教育科学文化機関(ユネスコ)第42回世界遺産委員会は30日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)の世界文化遺産登録を決定した。日本でキリスト教が禁じられた時期に、民衆が2世紀以上にわたり独自に信仰を継続した歴史が世界遺産にふさわしいと評価された。
  国内の世界遺産は22件目(文化遺産18、自然遺産4)。長崎県内では、「端島炭坑」(軍艦島)など長崎市内の8施設を含み、2015年に登録された「明治日本の産業革命遺産」に次ぎ、2件目。

潜伏キリシタン遺産の構成資産の一つ、「外海の出津集落」=長崎市西出津町(小型無人機ドローンで撮影)

 審査では、世界遺産委の委員国から「ユニークで傑出した歴史を語る価値のある遺産だ」などと評価する意見が相次いだ。議長が木づちをたたき、登録が決定すると、中村法道知事ら日本代表団に向かって、各国から大きな拍手が送られた。議場であいさつした知事は「住む人に誇りを、訪れる人に感動を与えられる資産を目指す」と英語で感謝の言葉を述べた。
 潜伏キリシタン遺産は、江戸幕府の禁教政策を強める契機になった「島原・天草一揆」の古戦場である「原城跡」(南島原市)をはじめ、信徒が処刑された無人島で聖地として崇拝された「中江ノ島」(平戸市)、潜伏信徒が暮らしていた9件の集落と集落跡、現存する国内最古の教会で国宝の「大浦天主堂」(長崎市)で構成。弾圧の下、仏教や神道を装い、ひそかに信仰を継続した潜伏キリシタンの歴史を物語る。
 政府は15年に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として推薦したが、ユネスコ諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)から禁教期に焦点を当てるよう指摘を受け、内容を見直して昨年2月に再推薦した。県は国内で初めてイコモスの正式支援を受けて推薦書を作成。イコモスは今年5月、「価値を示すために必要な全ての構成要素が含まれており、良好な保全状態が維持されている」と高く評価し、登録を勧告していた。
 来年の世界遺産委では、国内最大の前方後円墳、大山(だいせん)古墳(仁徳天皇陵、堺市)を含む「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」(大阪)の登録の可否が審議される予定。

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録決定を喜ぶ市民ら=30日午後5時51分、佐世保市中央公民館

◎ユネスコの理念を体現
 権力の弾圧に屈せず、忍耐強く自分たちの信仰を守り通した「潜伏キリシタン」の歴史が「人類の宝」として認められた。
 潜伏キリシタンとは禁教期に生きた民衆であり、彼らの信仰を今に伝える「痕跡」である教会や墓地、指導者の屋敷跡などを大切に後世へ引き継がねばならない。潜伏キリシタンの生活を想起させる集落の風景も重要な物証だ。可能な限り現在の景観を維持していくことが求められる。
 潜伏キリシタン遺産が秘めるメッセージ性にも注目したい。世界には今なお信仰の自由がない国があり、宗教の違いによって迫害や差別にさらされている人たちがいる。信仰を隠しながらも粘り強く継続し、最終的に信仰の自由を得た潜伏キリシタンの物語は、世界中の人を力づけるだろう。
 潜伏キリシタンが暮らしていた集落には教会があれば、神社や仏寺もある。異なる宗教が共存する穏やかな風景は、違いを認め合うことの尊さを教えてくれる。潜伏キリシタン遺産はピラミッドや万里の長城のように一目で価値が分かる世界遺産ではないが、教育と文化の力で世界平和を実現しようとするユネスコの理念を体現する遺産といっていい。 

 

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