【論説】「世界の宝」守り続けよう 潜伏キリシタン遺産

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産登録が国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会で決定した。県内に点在する教会群を世界の宝にしようと民間有志で活動を始めてから17年。幾度の曲折を乗り越え悲願を達成した。長崎にまた世界遺産が誕生したことを関係者と共に喜びたい。ただ、登録は一つのゴールであると同時に新たな長い活動のスタートでもある。
 世界遺産とは「顕著な普遍的価値」を有する不動産のことだが、潜伏キリシタン遺産は信仰が価値の根幹になっている珍しい遺産だ。17~19世紀の禁教期に、弾圧や迫害に遭いながらも他宗教を装うなどして独自の形態を生み出し信仰を守り続けてきた信者たち。その独特の文化的伝統が評価された。
 国際記念物遺跡会議(イコモス)の指摘で、教会を中心とした構成から禁教期に焦点を当てた内容に変更したが、潜伏時代の物証は少ない。そこで潜伏キリシタン遺産では、信仰が守られてきた集落自体に価値を見いだし構成資産としている。長崎、熊本両県の12の資産のうち集落単位での資産が実に9を占めているのも、この遺産の特徴だ。
 国際的な知名度が高まれば、これまで以上に多くの人が訪れることが予想され、関係者は地域の活性化につながると期待している。だが、集落そのものが遺産の対象となっているため、地域内には祈りの空間もあれば、生活の空間もある。そういった場所にも多くの人が訪れることも考えられる。祈りや生活の場に影響を与えることなく、どう観光振興を図っていくのかが当面の課題だろう。
 世界遺産の概念が生まれたのは、1960年代にエジプトでダム建設により貴重な遺跡が水没する危機に見舞われたことがきっかけだ。ユネスコがキャンペーンを展開し遺跡を移設した。これを契機に、貴重な遺産を保護する意識が高まり72年のユネスコ総会で世界遺産条約が採択された。このことから分かるように、条約の目的は、世界的に価値のある遺跡、建造物、自然を人類全体の遺産として保護することにある。
 潜伏キリシタン遺産の場合、集落のどこを守っていくのか、どこまで守っていけばいいのか、範囲や程度が重要なポイントになってくる。過疎化が進む集落も多く、保全の担い手不足も大きな課題の一つだ。信仰が受け継がれてきた風景を、行政と地域住民が協力し、知恵を働かせ、守っていくことが求められる。
 保全活動に取り組むのは大変なことだが、世界遺産が存在する地域にしかできない「特権」でもある。登録に注いできた情熱を今後は保全活動に向け、世界の宝を守り続けていきたい。

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