【鉄リ工業会全国大会 in岡山】メインフォーラム「業界の今後を徹底討論」

コーディネーター/大和田秀二氏(早稲田大学創造理工学部環境資源工学科教授)
パネリスト/伊藤清氏(田口金属相談役)/中辻恒文氏(中辻産業社長)/小場泰知氏(マテック専務)/張田真氏(ハリタ金属社長)/甲谷禎浩氏(カンガイ社長)/西尾知久氏(平林金属常務)/丸本陽章氏(丸本鋼材社長)

 日本鉄リサイクル工業会は6月7~9日の3日間、第30回全国大会を岡山市で開催し、2日目の8日にはメインフォーラムとして「業界の今後を徹底討論」と題するパネルディスカッションを岡山コンベンションセンターで行った。コーディネーターには早稲田大学理工学術院の大和田秀二教授を迎え、パネリストとして業界経験や知識が豊富な7人が登壇。人口減少社会を迎えた日本の鉄スクラップ業界が抱える厳しい現実や課題について率直に意見が交わされた。パネリスト各氏の発言要旨を紹介する。

伊藤清氏/雑品問題、日本が20年間サボった〝ツケ〟

 かつて雑品ヤードの実態調査をしたが、日本全国で4千社もの業者がいると分かった。その背景には2002年に始まった中国の資源爆食がある。鉄や非鉄、古紙など資源価格が軒並み高騰したため、中国から資源の買い手が世界中に進出。当時は中国の資本家が買い手に出資していたが、08年のリーマン・ショックで資源価格が暴落し、資本家が出資を引き上げてしまった。これにより世界中の買い手が置き去りになり、いわば〝経済難民〟の状態となった。難民となった業者が生きるために何でもやらざるを得ない事情は理解するが、日本は法治国家であり、ルールは遵守されなくてはならない。

 日本のリサイクル業界として見れば、雑品処理を中国まかせにし、この20年間サボってきたと言える。中国の輸入規制によって、今まで楽をしてきたツケが回ってきた。

 この10年間で資金を蓄えた雑品業者は設備投資を行い、我々よりも高いリサイクル技術を持っている。問題は届け出をせず、税金を負担していない業者がいること。受益と負担は平等であるべきだ。

 次世代を担う若手へのエールとしては「時代の風を受ける人」になってほしいと思う。才能や努力も大事だが、何より大切なことは夢を持っていることだ。

 また、長い人生の中では胸突き八丁の困難に何度も会うだろう。その時には自ら物事を難しく考えない性格だと思い込むことが重要。物事の分別に関しては感情ではなく、仁愛をもってすれば大きな誤りにはならない。

小場泰知氏/日本の輸出、年間1000万トン超へ/各地区から港湾整備の声を

 かつて年300万トンの鉄スクラップを輸入していた日本は、今や年800万トンもの輸出国になった。1995年度に輸出国に転じたとすれば、23年ほどで年1千万トンもの需給構造の変化があったことになる。

 この変化に対応すべく、我々は鉄スクラップの輸出に自助努力として取り組んできた。発生余剰の日本では自ら輸出していなくても、各地区で誰かが輸出することで需給が保たれている。

 日本には電炉メーカーが特殊鋼を含め51社69工場あり、小棒の生産量は年850万トン。ただ、東京五輪が終わって数年すれば、小棒需要は年300万~400万トン減るのではないか。その時、鉄スクラップ輸出が年1千万トン超となる可能性はゼロではない。また、韓国が買わなくなることを考えれば、大型船に対応できる港湾整備を各地区で進めていく必要がある。

 港湾整備は各地区からの話が中央官庁に上がっていかなくては実現されない。港にバックヤードがない中、週5万トンの輸出がないと需給が維持できない関東地区の先行きについては非常に心配だ。

張田真氏/高度な政策実行へ一気通貫の業界の受け皿を

 特に最近、省庁では動脈と静脈を一体化した政策づくりを進めているように感じる。一方、我々の業界は鉄、非鉄、紙など縦割りの構造で、いわば分断されている。高度な循環型社会を構築するには現場の状況を正確に把握することは大切だが、リサイクル全体を対象とした団体がないことで、政策立案までに手間がかかり、全体観が見えにくいという悩みがあるようだ。

 欧州では循環経済に向けた政策が進んでおり、私たち静脈産業の未来は政策によって決まる時代だと危惧している。政策によって限りなく動脈へのつながりが濃くなっていくことは事実として受け止めるべきだろう。

 世界では包括的なリサイクル業団体があり、国と業界がきちんと話合い戦略的に政策を立案していく動きがある。欧州では使用済み製品やスクラップを発生時点で危険か否かで分ける非常に高度な政策をとっている。

 日本では歴史的に廃棄物を有償か否かで分けているが、今後は化学物質の規制が世界的に厳しくなる中、日本の法制度にも改正が求められるだろう。その際には我々の現場の実態をしっかり把握してもらい、政策に反映してもらう必要がある。

 日本も高度な政策を実行するには、業界構造を考えるべき岐路に立っている。国際競争力に資するプランなしに業界の未来はない。リサイクル業界を一気通貫する受け皿がないことは日本にとっての大きな課題だ。

西尾知久氏/ガラスとプラのリサイクルで/シュレッダーダスト減量を

 自動車リサイクル法委員会の委員長を務めているが、シュレッダーダストの処分場ひっ迫問題についてどう対応するのか非常に多く問い合わせをいただく。次のステップを考えると不安でいっぱいだ。

 先日、当工業会の本部に対して経済産業省、環境省からダスト問題について意見交換したいという要請があった。中央官庁からも当工業会は重要視されており、ここを乗り切れば工業会の価値も高まると考えている。

 自動車リサイクル法委員会の次の取り組みとしては、ガラスとプラスチックのリサイクルを議論していく考えだ。この2つを減らさない限り、シュレッダーダストの量を減らすことができない。また、国に対してはシュレッダーダスト処分場のひっ迫感で、深い議論が行われるよう全力で要請している。

 現状でバラ色の解決策はないが、善処されるよう当委員会ではダスト処分の問題に全力で取り組んでいく。

丸本陽章氏/雑品の完全リサイクル化で/循環型社会の構築を

 昨日はキックオフセミナー後、4つのテーマ(業界再編と異業種参入、今後のリサイクル業界の動向、人手不足への対応、人口減少と2020年以降の日本)で分科会を開催した。そこで抽出された問題点について参加者の皆様が自らの問題として持ち帰れるよう、業界事情に精通する論客たちにそしゃくしてもらうことが本日の討論会の狙いだ。

 直近の話題はやはり雑品問題に尽きると個人的に思う。中国政府が輸入規制を発表した後、「今後は雑品をどう扱うべきなのか?」といった質問をよく受ける。大変な問題になっている雑品だが、これを完全にリサイクルする技術を確立できれば、我々の長年のテーマである循環型社会を構築できたと言えるのではないか。その意味でも雑品を第一の問題として我々の将来を考えていく必要があると考えている。

甲谷禎浩氏/カッパー値が上昇、リサイクルの輪に黄信号

 環境委員会の委員長を務めているが、当委員会では今年度、電炉の成分外れとトランプエレメントに関する情報を発信したいと考えている。

 昨年末、東京大学の醍醐市朗准教授に「鉄リサイクルのこれから」という演題で講演していただいたが、本気でスクラップの選別精度を上げないと危ないと指摘があった。理由は、電炉に納入されるスクラップの銅分(カッパー値)が0・4%に上昇すると鉄筋棒鋼さえ製造できなくなるからだという。いずれ鉄スクラップ業と電炉メーカーで回してきたリサイクルの輪が途切れる可能性があると言われた。

 恐いのはリサイクルを繰り返すことで鉄鋼製品に含まれる銅の成分が濃化されていくこと。現状で鋼材に含まれる銅は0・3%近辺にあり、のりしろはたった0・1ポイントしかない。雑品をルーズに処理し、スクラップに混じってしまった場合、醍醐教授の試算では18年の鉄筋棒鋼には0・49%の銅が含まれるという。これでは〝レッドライン〟を大きく超えてしまう。

 現状は危険水域に来ており〝黄信号〟が灯っている。トランプエレメントに関しては業界全体で共通認識を持たないと、いつか業界という船が沈没しかねない。このため、今年度は環境委員会から〝黄信号〟に関する情報を発信していきたい。

中辻恒文氏/95年度に純輸出国に、事業は〝総合化〟へ

 討論会にこれほど多くの参加者が集まったのは、今後のリサイクル事業に対し皆が危機感をもっているからだと感じる。

 鉄リサイクル業界の動きを振り返ると、私の記憶に鮮明なのは1995年度に日本が鉄スクラップの純輸出国になったことだ。これによって日本の鉄スクラップ市況の展開に米国や欧州、トルコの動きが影響するようになった。

 その後、2000年に循環型社会形成推進基本法が制定され、家電や自動車など各種リサイクル法の整備も進んだことで、我々の事業が鉄のリサイクルだけでなく、その他の分野に乗り出さざるを得なくなった。95年以降の変化の流れの中、我々の事業が鉄から離れたわけではないが、当工業会の会員の意識を含め、全ての資源をリサイクルする事業へと総合化する方向に向かっていった。

 BIRや米国ISRIの大会に参加したが、鉄鋼部門だけでなく、紙やプラスチックなどの分科会があり、ほぼ全ての資源をカバーしている。一方、アジアは個別の資源ごとにリサイクル団体が分かれていることは印象的だった。

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