県世界遺産登録推進課課長補佐 川口洋平さん(49) 推薦書に12年 苦難の末 「宗教超えた普遍的価値」

 「長かったですよ、年も取りました」。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出する推薦書の作成に関わって12年。無事に登録が決まり、肩の荷が下りたような表情を浮かべた。
 2016年1月中旬。ユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)が出した審査の中間報告は「価値証明が不十分」として、「登録延期」勧告が見込まれる内容だった。何度も練り直した推薦書に自信はあったし、前年のイコモスの現地調査でも手応えを感じていた。登録への期待が高まっていた中、あまりにも大きな衝撃だった。
 政府は2月上旬に推薦の取り下げを決断。県はイコモスとアドバイザー契約を結び、推薦書を見直すことになった。最短となる18年の登録を目指すには、約1カ月で新たな推薦書原案を文化庁に提出しなければならない。イコモス側と擦り合わせを急いだ。
 ただ、相手は外国人だ。「歴史の常識が通じない部分もあった。例えば(構成資産の)教会が南米などと同じように植民地支配の産物と考えられていたり…」
 特に、除外を要求された「日野江城跡」「田平天主堂」の2資産を巡っては激しく議論した。「従来の資産を一つも落としたくない」。相手を納得させるため、どう説明すべきか-。考えすぎて眠れない夜もあった。最終的に2資産は外れた。「全ての関係者を満足させることはできず、それぞれに妥協を強いることになった。難しく、苦しい作業だった」
 潜伏キリシタン遺産には「登録基準では測れない価値がある」と思う。他宗教を装って本当の信仰を隠し、苦労を重ねてきた人々が何を思い、決心し、選択してきたのか。現代でも、本心を隠し、外向きの顔をつくって生きていく場面は多々ある。「そこは宗教を超えた人間の普遍的な価値だと思うんです」。推薦書には書き込んでいない思いだ。

登録までの道のりを振り返る川口さん=県庁

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