【MLB】「イチローは家族を大切にしている」 米メディアが伝えたマリナーズとの“絆“

会長付き特別補佐に就任したマリナーズのイチロー【写真:Getty Images】

今季は試合に出場しないイチローの「イキガイ」とは?

 マリナーズのイチロー外野手は4月に球団の会長付き特別補佐に就任し、今季の残り試合には出場しないことが決まっている。もっとも、これは引退ではなく、来季以降の復帰も可能。現在はチームに帯同し、これまでと同じように試合前の練習をこなしながら打撃投手も務めるなど、新たな役割にも挑戦している。

 イチローにとって、野球とは何なのか。米メディア「ジ・アスレチック」は先日、試合に出られない状況でも真摯に野球に向き合う背番号51について、特集を掲載。そのタイトルは「Ikigai of Ichiro(イキガイ・オブ・イチロー)」だった。 イチローの「生きがい」に迫っている。

 記事では、会長付き特別補佐に就任したイチローの現在の役割が多岐にわたっていることを紹介。スコット・サービス監督が娘の卒業式のためにチームを離れた際には、ベンチコーチを務めたことにも言及している。そして、打撃練習を務めるためにイチローが準備期間で1日200球を投げて練習していたとサービス監督が説明していたことにも触れながら、筆者は「私はその数が倍だと思う。なぜなら、イチローが中途半端に物事を行うとは信じていないからである」と指摘している。

 入念なストレッチをはじめ、イチローが試合前に完璧な準備を行うことは有名だ。それはレギュラーではなくなってからも変わらず、4番手外野手だったマーリンズ時代には、若手外野手にアクシデントがあった際に急遽スタメンを告げられても、しっかりと代役をこなした。

「ジ・アスレチック」では「イチローにとって、何事にも1つの方法しかない。それは、完璧にするということである。その原動力は、部分的にはシツケという日本の基本概念、そして部分的にはイチロー自身に端を発している」と指摘。日本語の「しつけ」をもちだし、そこにイチロー自身のパーソナリティーも加わり、「完璧」な選手が誕生したとの見方だ。

 昨オフ、シーズン終了後にマーリンズからFAとなったイチローの去就決着は長引いた。44歳という年齢に加え、FA市場が稀に見るスローペースとなったことも響いた。しかし、3月に入ってからマリナーズがオファー。レジェンドの復帰が実現した。レギュラー外野手のベン・ギャメルの故障離脱でマリナーズが緊急補強に動いたが、このジェリー・ディポトの決断は「イチローを神のように崇めるファン」からも批判の声が上がったと記事では指摘している。

「彼のいたすべての場所の中で、ここは幸せな場所のようである」

 ただ、イチローは「単なる尊敬に値するMLBのベテラン選手というわけではなく、マリナーズの象徴であり、マリナーズのユニホームを着た偉大な選手のトップ5に入る」という存在。特集では、「マリナーズのユニホームを着たイチローをまた見るスリルは否定できない」と球団にとっていかに特別な存在であるかを強調している。

 大方の予想通り、イチローは開幕からの1か月で強いインパクトを残すことはできなかった。地元メディアは戦力外の可能性を何度も報じたが、背番号51が会長付き特別補佐に就任し、“現役続行”という形をとることで決着。過去に例のない“役職”でチームに帯同し、選手を支えている。選手たちはことあるごとにイチローの存在の大きさについて語っており、2001年以来のプレーオフ進出へ向けて好位置につけるチームの中で重要な役割を果たしていることは明らかだ。

 記事では、春季キャンプでイチローと時間をともにしたマイナー選手のイアン・ミラーのコメントを紹介。何に最も驚いたかを聞かれ、「彼の取り組み方について耳にするけれど、実際にそれを目の当たりにすると本当にすごいんだ。本当に多くのことを学んだよ。でも驚いたこと? 彼はとても……面白いんだ。予想できない感じでね。本当にただ面白い。ただすれ違っただけでも、彼は完璧な一言を口にするんだ」と話している。

 さらに、マーリンズ時代からのチームメートで、練習中にはイチローのそばから離れないディー・ゴードン内野手が、今年春に出版されたライト・トンプソン氏の本の中で「本当に彼がプレーを続けることを願うよ。なぜなら、彼に死んでほしくないからね。彼はプレーを続けないと死んでしまうのではないかと思うんだ。イチローが野球をしなかったら、何をするっていうんだ?」と話していたことにも言及している。試合に出ないがチームに帯同して選手と一緒に練習する、という立場は今までになかったものだが、それがイチローであれば“日常“になってしまう。

「彼のキャリアを見てきた人で、彼が野球をしないと信じる人はいるだろうか? イチローは2つのうち1つの場所にしか存在できないようである。それは、野球のフィールドと野球のフィールドに向かうまでの道のりである。そして今、彼は第3の場所にいる。フィールドでもなければ、フィールドでないわけでもない。それは境目であり、他の誰もいたことのない境界の場所である。それでも、彼のいたすべての場所の中で、ここは幸せな場所のようである」

 何よりもイチローが幸せそうであることが、現在のような状況になったすべての理由を表しているようにも見える。特集では「部外者からは少し愚かだったり、悲しく見えるかもしれない。しかし、よく見てみよう。イチローとチームの写真をよく見てみると、彼が野球における家族、彼が時間をかけて築くことを学んだ家族を大切にしていることが分かる」とも言及している。

 2019年、マリナーズは東京ドームで開幕戦を行う。イチローがここに現役選手として出場する可能性はかなり高いと見られている。そして、その後もイチローがマリナーズの一員として公式戦の舞台に戻ってくる機会がいつ訪れても不思議ではない。イチローとマリナーズの特別な関係は、いつまでも続く。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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